第23話 初めて使えたスキル

 彼女が必死になる理由は分かっていた。


 このまま突きを放てば、恐らく同様に突きを繰り出そうとしている奴と相討ちになる。魔人の適応力が半端じゃないというか、死を恐れていない奴はきっとどんな存在よりも恐ろしい。


 それでも俺は突きの姿勢を止めない。まるで示し合わせたかのように、剣と剣が交差する。この時ばかりは、何か時間が止まっていたような不思議な感覚があった。


「ぐ……」


 続いて焼けるような熱さが俺を苦しめる。奴の剣が突き刺さっていた。灰色の騎士は前傾姿勢のまま止まっている。


 緩やかだった時間が元に戻る。騎士の追撃はこない。奴はゆらりと体が崩れ、人形のようにただ倒れる。


 魔人の喉元には、俺の剣が突き刺さっていた。


「ジーク……ジーク!」


 その後、聖女を閉じ込めていた光の檻が消失した。怯えた顔になって側にやってきた彼女は、すぐに回復魔法を発動させた。これは多分ヒールかな? よく分からないから、後で聞いておこうと思いつつ、刺さっていた剣を引き抜く。


「だ、だめだよ! 急に抜いちゃ」

「そ、そうだよな。でもこういうの、一思いにやったほうが良くない? いってええ!」


 ズキズキするどころじゃない! でも、すぐに傷は治っていく。けっこうぐっさりと剣が腕に刺さっていたんだが。


 実はなんだけど、さっきお互いに突きを放つみたいになった時、俺はぎりぎりで剣を投げてみたんだ。その後あいつの突きを腕で防いでみた。無茶苦茶なやり方だったけど、意外と上手くいったから良かった。


「もう! あんな無茶なことしちゃダメだよ!」


 フィアの瞳がやけに濡れている。あれ? もしかして泣いてる?


「わ、悪い! いやでも、まあ……このダンジョンって実際は死なないじゃん? 痛いけど」


 さっきまでは死ぬかも、なんて考えいたのに、戦いに必死になって頭から吹っ飛んでた。


「バカ! それでも絶対ダメだよ。あんな無茶なこと」

「悪い……気をつけるよ。それと腕、ありがとな」


 ほんの数秒程度だったのに、腕は傷痕も残らずに元どおりになった。しばらくして、またダンジョン全体が白くなり始める。


『ステージ3-3 灰色の魔人 クリアしました』


 終わった。今回はヤバかったと考えている時だった。


『ダンジョンの攻略に成功。スキル【クロック】を獲得。挑戦者に時力300と時PT560を付与。支援者に魔力437PTを付与』


 ん? なんか今、スキルを獲得しましたとか言った?


 呆気に取られつつも、俺たちは小山に戻ってきた。しかし不思議だ。今までは時の石板から獲得しているだけだったのに、ダンジョンをクリアしてスキルを獲得した。


 ギフトダンジョンっていうのは、こういうのが普通なんだろうか。


 冒険者の逸話や日常については調べまくってきた俺だけど、ギフトダンジョンについてはほとんど情報がない。だから、これが当たり前なのかすら釈然としない。


「ねえねえ! さっきクリアした後、凄いこと言ってなかった?」


 森に戻ってくるなり、フィアが目を爛々とさせて迫ってくる。その整いまくった容姿で目の前までこられると、流石にドキドキしちゃうからやめてほしい。


「あ、ああ。なんだろうな。クロックって……」


 そう呟くように返した時だった。


「うおおおー!? なんだ、なんだ!?」

「へ? どうしたの」


 クリッとした目で戸惑うフィアをよそ目に、俺は突然の現象に混乱しまくり、立ち上がってキョロキョロし続けた。だってこんなの絶対落ち着いてられないって!


 視界の右下に10:02:24が出てきたと思ったら、その数字がどんどん増えていくんだから。


 やたらと目立つその数字は、少しもブレることなく伸び続けている。俺はフィアに事情を説明すると、彼女はへえー、とか……ふぅーん、というような曖昧な反応をした。


「ジークにだけ見えてるみたいだね。でも、時間が見えたら……どうなるの?」

「さ、さあ。っていうか、これなんとかしたいんだけど」


 もしかして、このまま一生右下に数字が見え続けるのか。やばい! 完全に発狂しちゃうよ。


「どうなってんだこれ!? ストップっていうと止まったり……し……消えた!」

「全然分かんないけど、なんかすっごい気になる!」


 俺も気になる。どうして数字がいきなり出てきて、パッと消え去ったのか。もしかして、さっきの単語が? もう一回つぶやいてみよう。


「クロック」

「……ごくり」


 緊張のあまり聖女様が息を呑んだが、俺の視界には変化が起こらなかった。謎だ、謎すぎる。


「今度は出てこないな」

「あ、私分かっちゃったかも」


 なんですって。この短い時間に解き明かしたのか。


「きっとジークは、無意識にスキルを使っちゃったんだよ。初めてだから分からないんじゃない?」

「そうなのか……うーん。確かにそうかも」

「スキルの使い方は、やってるうちに大体分かってくるから、きっと大丈夫! じゃあまた明日にしよっか」

「ん? ああ……でも、まだ挑戦回数あるよね。やってみない?」


 普通に答えただけだったが、フィアはあんぐりと口を開いて驚いてる。


「ええー。あんなに大変な目に遭ったのに、すぐに挑戦するの?」

「ああ。まあ、もう充分休んだし」

「凄い! 普通みんな嫌になってやめちゃうよ。ジーク、途中までボコボコにやられてたでしょ」

「いや、そこまでボロクソだったわけじゃないだろ」

「ううん。とっても痛そうだったよ。っていうか、今日はやめよ。っていうか遊ぼ!」

「帰って休もうっていう提案じゃないんだ」


 唐突な提案をしてくる聖女様は、いつもよりさらに気分が高揚していた。まあ、確かに遊びたくなる時ってあるよね。

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