第20話 フィアにおまかせ

 前からやってくるスライム達は、今度は散り散りかつ色とりどりの集団だった。青、赤、黄色、緑、カラフルな刺客を、ここからどうやって対処するか。


 そんな中、悠長な疑問が頭に浮かぶ。ちょっと遠目に見えるあの黄色いスライム。もう一個くっつけたらどうなるんだろ。でも奴は正面にいる俺より少し右側から迫っている。普通にやったら赤スライムとくっついて、また重くなってしまう。


 これ、横にずらせないかな。ただの思いつきで右側に押してみたところ、意外と簡単に動いた。


「おお? い、いけるか?」


 なんとか奴がぶつかってくる地点に、黄色スライムがやってくるポイントを合わせる。そのまま前進したところ、狙い通りに黄色スライム同士がぶつかった。


 その時だった。キラッという、おおよそこの場には似つかわしくない軽い音とともに、黄色いスライム達が光りながら消滅した。


「わあ! 消えちゃったよー」

「あ、ああ。多分だけど……同じ色をぶつけると消えるんじゃないか」


 このスライムを盾にしつつ合体させて、消しながら進むっていうのが正式な攻略法かもしれない。迷路の時、やけに凝った最適解を用意していたことを考えれば、あり得る話だ。もう一回試してみたいところだが、手前にいる赤スライムと同色ではない連中が迫ってくる。


 あんまりくっついたら重くて動かせなくなっちゃうな。


「楽しそう! 私もやる」


 すると隣からニコニコしている聖女様がやってきて、すぐそこまできていた青スライムにタッチした。


「よ、よし! 頼む!」


 俺たちは二人で息を合わせつつ、迫り来るスライムをくっつけては消し、くっつけては消しを繰り返しながら前に進む。


 当初こそ厄介で難問と思われたスライム達は、扱い方さえ間違えなければ簡単だった。そう気がつくまでには時間がかかったが、二回目の挑戦でクリアできるなら、きっと悪くはないと思う。時には他の色のスライムをくっつけてから、二種類のスライムを連続で消したりもしてみた。なんか楽しい。


「ねえジーク見て! 四回連続で消しちゃった」

「え!? マジで?」


 いつの間にフィアはそんな技を? ちょっと悔しい。よし、なら俺は五種類消してやる! って、なんか上手くいきそうでいかない!


 薄暗い通路の中は、いつの間にか淡い光に彩られ、不気味というより幻想的な世界に変貌していた。なんか楽しくなってきたところで、とうとう扉が間近に迫る。


「これでどうだ!」


 俺は最後のスライムを消すと、奥から援軍が来る前に扉を抜けた。みるみる視界が真っ白になっていく。


『ステージ2-1 スライム通り クリアしました』


 もうお馴染みとなったあの声が響き、俺は攻略できたことに安堵する反面、もうちょっとやりたいとも思ってしまった。めっちゃ楽しいよスライム通り!


 そんなこんなで、あっという間に秘密の砦に戻ってきた俺達は、時つかさんから以前と同じように報酬を貰う。


『ダンジョンの攻略に成功。挑戦者に時力150と時PT150を付与。支援者に魔力150PTを付与』


 以前よりもグッと上がったっぽい報酬。もうポイントにしろ時力にしろ、どんどん数値が上がっているような気がする。


「ビックリー! なんか、私の魔力もけっこう上がったみたい。凄いね! このダンジョン」

「やばいくらい上がるな! じゃあ、次は何を取ろうかなぁ」


 三列のスキルツリーは、きっとまだまだ多くの玉があるんだろう。とりあえずひたすら獲得しまくることにした。でも、一つ大きな疑問がある。一列を深掘りしたほうがいいのか、または三列バランスよく取っていくほうがいいのか。


 以前は適当でいいやとか思っていたけれど、スキルを得られることとダンジョンに魅せられ始めていた俺は、しっかり計画して獲得するべきだと今更ながら思っていた。


 でも、何が正解かなんてさっぱり分からない。もしかしたら獲得できる玉の総数は決まっていて、どれか一列を極めるように取っていかないとダメだった、ということもあり得るわけで。あー悩む!


「ううーん。どうしようかな。バランスを取るか、一つに絞るか」

「ねえねえ、それって私が触っても反応するのかな?」

「え?」


 脇から興味津々で石板を見つめるフィアが、ゆっくりと手を伸ばしてくる。つん、と玉に触れた時だった。


『時力+20を獲得しますか?』

「ねえジーク、はいっていってみて」

「え、あ、はい」

『時力+20を獲得しました』

「面白ーい! ねえねえ、もうちょっと私が選んでもいい?」


 どっちみち悩んでたところだし、まあいいか。フィアは凄く喜んでるみたいだけど、そんなに面白いかなー。


「まあ、今回は好きなだけ選んでいいよ」

「え! ありがとー!」


 俺が破顔しつつ答えると、彼女はおもちゃを与えられた子供みたいにスキル選びに夢中になっていく。


 あとはただひたすら、「はい」と繰り返すだけの単純なお仕事でした。


 しかし、これって本当に強くなってるのかなぁ。まるで実感が湧かないというか、何も変わってなさそうというか。でも、よくよく考えてみるとちゃんと戦ってないのだから、変化が分からないのも当然といえば当然だった。


 あと、ちょっとツリーの進み方のバランスが変わってきた。左列が突き抜けており、真ん中と右の列はほとんど変わってない。フィア的にはこれが良かったみたい。


 全てを終えて、今のステータスを確認してみるとこんな表示になっていた。


 =========

 名前:ジーク・シード

 肩書き:時喰いの迷宮への挑戦者(いい感じ)

 獲得したスキル:

 時のおまじない(守)、時の思い出

 所持時PT:0

 =========


 ん!? なんか肩書き変わってるな。君、いい感じだねー……ってこと? なんかやけに軽い感じ。っていうか、こんな肩書きは恥ずかしくて誰にも言えない。


 それともう一つ、時力や第六感、反射神経を上げるスキルを獲得してるけど、これらはステータスには表示されないらしい。


 っていうか、ちょうどよく時PTを0にしてるあたり、フィアは計算してないようでちゃんと計算していたっぽい。そしてここまできて、俺はもう少し早く聞くべきだった疑問に思い当たる。


「フィア、今更なんだけどさ」

「え? なーに」

「スキルって……どうやったら使えんの?」

「え? ……あ! そっかー。ジークは全然使ったことなかったよね。確かに、村で生活してたら覚える機会なかったよね」

「ああ。それに俺、魔力ないし」


 けっこう恥ずかしい質問をしたが、金髪の優しい聖女様はうんうんと納得している。村で生活している人達は、普通スキルとかは覚えないし、使い方なんて知らない。俺も図書館で勉強してみたけれど、この使い方だけはよく分からなかったわけで。


「大丈夫! このスキルは魔力はいらないって、最初に女神様に教えてもらったから」

「え!? マジ?」

「うん! じゃあ私が使い方教えてあげるね! 明日でいい?」

「あ、ああ。悪い」


 なんかワクワクしてきた。ただの村人にとっては、超能力を手にするような気分だったし。フィアに貸しができまくっちゃってるな。この恩はちゃんと返さないと。


 フィアと別れ、家に帰ってからはどっと疲れが出てしまったが、不思議と気分は良い。明日のことを考えると、なんだかワクワクしてきてなかなか寝付けなかった。

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