第19話 押し寄せるスライム

 このスキルツリーっていうのは本当に不思議だ。何しろ、三列あるツリーにいくつも玉があって、一個ずつ獲得していかないと先が分からないようになってる。


 それと列ごとに得られるスキルが若干異なるように思えるが、取っていくにつれて他の列と同じようなスキルが現れたりして、法則性が掴めない。要するに分からないことだらけってこと。


 俺はとりあえず、バランスよくスキルを獲得していくことに決めた。フィアによって命名された時つかさんの確認に従い、とにかくひたすらにスキルを獲得していく。


『時力+5』

『時の思い出』

『時力+2』

『第六感+1』

『時力+1』

『時力+5』

『時のおまじない』

『反射神経+1』


 うーん。けっこう獲得できたんだけど、この時力っていうのは結局なんなの?


 それと第六感とか、反射神経とか出てきたのが不思議だった。こういうのが数値になっているということ自体、なんていうか意外。でも戦いには役に立ちそうなことは確かだと思う。


 フィアとも話し合ってみたが、時力については結局のところよく分からない。ゲットしないことには次のスキルが出現しないので、獲得する以外なさそう。


 沢山スキルをゲットしたつもりだけど、どのツリーも半分にも到達してない。っていうか、まだ全然上のほうで止まっちゃってる。七十八ポイントあったが、残りは三ポイントになっていた。


「すごーい! 沢山スキル獲得できたね!」


 フィアが爛々とした笑みを浮かべて俺の手元、うっすら青光りする石板を見つめる。そういえば俺ばかりが強化されている気がする。


「悪いな……なんか俺ばっかり」

「ううん! 私もあのダンジョンに潜る度に、魔力が上がってるよ。すっごくありがたいことなんだよ」


 そういえば時つかさんは、支援者の魔力が〜とか言ってたっけ。


「きっと普通に冒険してるより、強くなれるかもね」


 けろっとしているが、俺は妙に居心地が悪くなる。彼女は剣聖パーティの一員であり、間違いなく一年間は冒険に駆り出されている。つまり、本当の修羅場を経験しているのだ。


 俺が現在挑戦しているのはギフトダンジョン。実際に死ぬということはない(らしい)練習場のようなもの。このダンジョンで力を磨いたところで、どれだけ本当の戦いで通用するかは分からない。いや、きっと上手くいかないことだらけな気がする。


 いくらか後ろ向きになってしまうこともあるが、それでもダンジョンに挑みたい気持ちは変わらないどころか増していた。俺でも強くなれるなら、試してみたい。


 森にたどり着くと、すっかり様になった幼馴染聖女様が、慣れた仕草でダンジョン召喚を始めた。その時、ふと一つの作戦が頭に浮かんだ。それが成功するかは、試してみるまで分からない。


 ◇


「え? ちょ、ちょっと! ジーク?」


 フィアの戸惑う声が背後からするが、集中している俺は返事をする余裕がなかった。面倒くさすぎる一本道で、今度は剣を抜かずにただ走る。


 しばらくして、小石くらいに見えたスライム達がどんどん迫ってきた。奥の扉から無数にやってくるそいつらに対して、どう迎え撃つべきなのか。単純に剣で切っているだけでは、ぐいぐい押されて後退してしまう。でも、何かしらの突破口はあるはず。


 その時ふと思ったのが、不自然に光っているこの両手だ。フィアも同じくして両手がキラキラしている。きっと、これを使って何かをしろってことじゃないだろーか。


「だあ!」


 気合とともに一発、目前まできた赤スライムを殴る。目がバツになった奴は少し後退したものの、すぐに怒り顔になってこちらに迫る。ええー、全然意味ないっぽいぞ。


「く! こいつうう」


 俺はとりあえず押しのけようとそいつに触れた。そして、同じミスをまたしちゃったことに気づいて青くなる。スライム達は異様なほど粘着質な体をしており、くっつかれるとなかなか離れない。


「……ん?」


 だが、ふと違和感が。スライムはくっつくことはなく、押されると素直にずるずると下がっていった。


 え? なんで? もしかしてこの手のキラキラが効果を発揮しているとか?


 じゃあこのまま押し続けていけないかな、とダッシュしながら押し続ける。


「え? え? なんか、凄い」


 背後からおっかなびっくりしているフィアの声が届いた。俺もよく分かってないが、これは不思議だ。赤スライムはさっきまでの怒り顔も消え、普通の表情になっていた。スルスルと押していくと、黄色いスライムにぶつかりくっついた。


「う、重くなってきたか」


 考えてみれば当たり前かと思いつつ、気合を入れて押し込んでいくと、また奥からやってきた黄色いスライムがくっつく。すると、黄色いスライム同士が密着というか、一体化してしまった。


「な、なんだ?」


 遥か遠くの扉からどんどんやってくるスライム達に焦りつつも、違和感はさらに膨らむ。赤スライムと黄色スライムがくっついた時は重さが増したけど、今回は特に変わった様子はない。


 どうなってんだこれ? 俺はワケがわからない現象を前にして頭を悩ませていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る