第10話 スキルツリーとスキル

 なんだよこれ! とにかくビックリな光景が繰り広げられていて、目を丸くしてこの変化に見入ってしまう。


 時の石板が青々と光りだし、やがて上部に一つの玉が浮かんでくる。そこから一本の光を帯びた縦線が伸びていった。


 線は石板の下部まで進んで止まり、今度は一番上の丸付近から枝分かれが発生している。あれよあれよという間に3本の縦線になり、連結部近くに玉が3つ出現した。


「わああ。凄い……これでスキルが獲得できるんだね」


 フィアが瞳をキラキラさせて、スキルボードに熱視線を送り続けていた。


「よく分からないけど、どうやるんだろ」

「きっと、その玉? のどれかに触れれば分かると思うよ」


 助言に従い、とりあえず右側にある丸に触れてみる。


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 ・時力+5

  必要時PT :10

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 時力? そういえばさっきも、女の人が俺の時力が上がったとか言ってたっけ。ただ、名前が出てきただけで特に何もない。謎の力すぎるというか、最低限の説明もありませんぜ。もう少し親切にしてくれたらお兄さん嬉しいなー!


 若干の不満を感じつつも、分からないからこそだろうか、好奇心が刺激されてしまう。今現在玉は三つ。今度は最上部にあるやつに触れてみた。


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 名前:ジーク・シード

 肩書き:時喰いの迷宮への挑戦者(初心者)

 獲得したスキル:なし

 所持時PT:5

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 これは自己紹介みたいなものか。なんで肩書とかあるんだろ。


「わあ! ジーク、なんだかカッコいい肩書きじゃん」

「そ、そうか? 初心者ってところがイマイチな気がするけど」


 新米ですっていう説明感が凄いが、確かに始めたばっかりなのだから間違ってない。俺は続いてそのすぐ下にある、真ん中の玉に触れた。


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 ・剣技微上昇

  必要時PT :12

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「剣技微上昇ってことは、つまり剣の腕を上げられるってことか!」


 喉がごくりと鳴った。まさか石板の力で、剣の腕を上げられることがあるなんて。


「じゃあこのスキルをゲットしてゲットして、たっくさん取りまくったら、ジークは鬼強剣士になれるね!」

「微っていうのはどのくらい上がるか分かんないけど、確かにこれは取りたい」


 剣技ってだけで惹かれる。とにかく最後、一番左の玉にも触れてみることにした。


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 ・時のおまじない(守)

 必要時PT:8

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「なんだこれ? 謎すぎるんだが」

「かっこの中に守って書いてあるから、助けてくれるんじゃない?」

「な、なるほど? もっと説明が欲しい」


 これで全部確認したわけだけど、結局のところよく分からなかった。あーだこーだと二人で石板について考察しつつ、森を出て田んぼ道を行く。


「時PTが貯まったら、いろんな力が手に入るってことなんでしょ。なんか楽しみだね」

「ああ、でもさ。要するにあのダンジョンにまた挑戦しなくちゃダメってことなんだろうな」

「うん。ジークさえ良かったらだけど、またやってみない? 私、今日はもう呼べないみたいだから、明日またやってみようと思うの」


 フィアはやる気満々だ。正直なところ、俺も興味が湧いてきている。この石板によって何が手に入るのか、本当のところは分からないけれど。でも、惰性で生活するだけの毎日よりはずっといい。


 ただ、その前に聞いておかなくちゃいけないことがあった。


「なあフィア。レオの村には、どのくらいいる予定?」

「ん……んー。けっこういるかも」

「休みの日数とか決まってるんじゃないの?」

「まっ。意外と適当だよ。ジークは全然気にしなくていいの」


 そういうもんかなぁ。実は剣聖のパーティって緩いのか?


 俺は結局冒険者を諦めた人間だから、仕事と休日の割合とか、連休はどうするんだとか、細かいところは分かってない。でも、きっとフィアくらい将来有望かつ貴重な戦力であれば、多少の融通は効かせるのかもしれない。


「っていうか……ジーク」

「どうした? 急に深刻な顔になって」

「父様と母様、今のあたしを見たらどう思うのかな」


 俺と再会したばっかりの時も言ってたっけ。言われてみれば不安になるのも分かる。フィアは五年も里帰りしてなかったんだ。この長い期間は彼女を大きく成長させたが、それだけ変化してしまうと再会した時の反響も気になるところだろう。


 その点、俺はレオの村と隣町くらいしか行動範囲がなかったので、誰からも変化を感じてもらえない。いや認知されているかすら怪しい。


 まあ虚しい村人はどうでもいいとして、とにかく大事なのは聖女の里帰りだ。なんか緊張で少し猫背になってきてる。


「大丈夫だよ! 今のフィアを見たらきっと感動するぞ。俺が親父だったら泣いちゃうね」

「ほんと? 私ちょっと自信がないんだよね。魔法も多少覚えたくらい」

「きっと大丈夫。自信持って行きなよ」


 魔法は多少覚えた程度……という表現は、幾分謙遜しているような気がした。手紙で近況を語ってくれた時、よく魔法について学んだことが書かれていたけれど、学園で学べる聖魔法は一通り覚えたらしい。でも、明るいながらもどこか自信を持てないところが、昔と変わってなくて安心してしまう。


「そ、そっかな? じゃあ頑張る!」


 ニコっとした顔も五年前の面影がある。その後再会した両親の猛烈な反応にビビりまくっていたが、俺としては微笑ましくもあり嬉しかった。


 ただ、ご両親は俺の姿を見るなり、明らかに臭いものに遭遇した嫌そうな顔をしていたんだが。まあね、分かってたよ。時々村で会ってもいい顔はされなかったんだから当然だ。


 しかし、フィアの両親よりも気になっていたのはダンジョンだった。本当に明日もやるのかな? 実際は一回限りしか出現しないダンジョンだった、とかいう可能性だってありえる。


 不安になりつつも、あっという間に次の日はやって来た。

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