第6話 お土産はダンジョン!
俺は冒険者の夢なんてすっかり忘れ、武器屋とか防具屋とか、それから道具屋の受付をして日銭を稼ぐ毎日だった。
日雇いで働きたい時に働き、あとはぐうたらしてる。フィアとの差は広がるばかりで、もはや別世界の人というくらい。
「あーあ。どうすっかなぁ」
頭を掻きながら、とりあえず外に出て新鮮な空気でも吸うことにした。
天気は晴れ。今日も川は澄んでいるし、山々はいっぱいの緑で視界を潤してくれる。とりあえず散歩でもしようかな。あー眠い怠い。
村は今日も平和そのものだ。しばらく歩き続けていると、村の入り口付近にあるアーチを誰かが通っているのを見つける。
この村に他所の人が来ることはほとんどない。大抵が隣町に持っていかれて終わる。だから珍しいと思ったんだけど、その人は見た目もかなり変わっていた。
長い金髪は陽光を浴びて煌めき、赤い服はシスターのようではあるが、スカートは案外短めで、そこから白い脚が見える。右手に持った長い杖とブーツも白く光っていた。とにかく目立つ容姿で、他の村人達も彼女が気になってしょうがないようだ。
すると、その超目立つ外見をした美少女が、こちらに手を振って小走りになる。俺は咄嗟に背後を確認したけれど、誰もいない。あれ? じゃあ俺に用があるの?
すぐ近くまで駆け寄ってきたところで、キラキラした金色の瞳に吸い込まれそうになる。でも、すぐに違う意味で目が釘付けになった。
「わあ! ひっさしぶー!?」
女の子っぽい外側に腕を振りながら走っていた彼女の足が、何もなさそうなところで躓き、顔面から地面にダイブしてしまった。
「痛ったた……じ、ジーク。久しぶりー!」
派手にすっ転んで涙目になりつつも、すぐにその人は立ち上がって笑顔になった。……え? ちょっと待って。俺の知り合い? こんな美少女の知り合いなんていたっけ? もしかして弟と間違え——ってそれはない。容姿が全然違うし。
「え、あー。あー、久しぶり」
「あれー。なんかすっごい薄い反応じゃない。五年ぶりだよ! あ、そっか。もしかしてこの前のお手紙、届いてない?」
ハッとした。俺の脳天に稲妻が走った。この容姿と、このちょっとドジな感じ。もしかしてというかもう可能性は一択だが、この美少女はフィアなのか。
見違えたという表現では到底追いつかないほど、五年ぶりに再会した幼馴染は成長していた。パッと見た感じ知らない人としか思えないくらいに。
「フィアだったのか! ちょっと変わりすぎてて、全然気づかなかった」
「ええー。ひどーい。私の顔まで忘れちゃうなんて、あり得なくない!?」
確かに酷い。これは言い訳できそうもない。
「ごめん。でも、それだけフィアが成長したんじゃん」
「ジークは一発で分かっちゃった」
「まあ、俺は大して変わってないからな」
「ううん。変わったよ! 背が伸びたし、ちょっと大人っぽい! でも顔はそのままだね」
「喜んでいいのかなー、それ」
「あはは! じゃあとりあえず、行こっか」
そう言うと、さっさとフィアは歩き出した。行くってどこに? って聞くまでもなく、答えは実家だろう。向かって行く方角を見れば間違いなくあそこだったし、まず両親に元気な顔を見せなきゃいけないはず。
道すがら、フィアは興味ありげに俺の五年間について質問をしてきた。手紙で大体伝えているはずだから、中身のない毎日だったなんて知ってるだろうに。でも、なぜか楽しそうにしてる。
「えー! じゃあホントに道場やめちゃったの。もったいないよ」
「才能がなかったんだよ。まあ別に、俺はもうただの村人でいいけどな」
「じゃあ私も、ただの村人になろっかな」
「フィアは立派な仕事があるだろ」
「ん、んー……」
この時、なぜか歯切れの悪い返事をしていたが、俺は特に気にしていなかった。どこまでも続くようなあの大きな庭に、また足を踏み入れる……それがちょっとばかり憂鬱だった。あの剣聖に叩きのめされた記憶が蘇ってきそうで。いや、もう蘇ってるけど。
しかし、フィアは本当に聖女になったんだなぁ。歩き方がしゃんとしている感じだし、横顔には可憐さと凛々しさが混ざり合っていて、なんだか眩しい。遠い存在になったな、としみじみ思っていた時だった。
「ねえジーク。お父様とお母様に会うの……なんかすっごく緊張する」
「え? ああ、全然気になくて大丈夫だよ」
「ホントかな。ガッカリされないかな」
「全然。っていうか超喜ぶんじゃない?」
「……うん」
フィアの自分に自信がないところは、あんまり変わってないみたい。昔と同じところを見つけて、ちょっとだけ懐かしい気持ちに浸っていたんだけど、だんだん家への道からずれていることに気がついた。
「あれ? もしかして実家の道忘れちゃった? こっちだよ」
「あ、ううん。その前に済ませておきたいことがあるの」
「済ませておきたいこと?」
「うん! ほら! ジークへのお土産、先に渡さなきゃって思って」
両親より俺へのお土産が優先かぁ。嬉しいけど、さすがにお父さんお母さん泣いちゃうって。
と思ったんだけど、別に寄り道なんてしなくても良いような気がする。
「マジかよ。でも、ここで受け取っておくよ」
「ううん。目立つところはダメなの。秘密の砦に行こ」
え? 目立つところじゃ渡せないお土産って何? 疑問が膨らむなか、フィアは楽しそうに坂道を登っていき、とうとう森の中に足を踏み入れた。
「全然変わってないね! 私達の穴場スポット」
「まあな。時が止まっているみたいに、ここはずっとおんなじだよ」
「うん、きっとそうだね。……ねえジーク、話は変わるんだけど……強い剣士になりたいって、今でも思ってる?」
「唐突だな。急にどうしたの」
かなり前に諦めたことを質問されて、俺は戸惑っていた。フィアの突拍子もない質問にではなく、即答できない自分自身に戸惑っている。
「ん。分かっちゃった。だから答えなくて大丈夫だよ」
「え? どういうこと」
「ジーク! 見てて、これがお土産」
フィアはそういうと、瞳を閉じて杖を胸のあたりに持ってくる。これは祈りだろうか。しかし、ただの祈りでは終わらず、気がつけば地面から青白い光が湧き上がってきた。
次第に光は増していき、小さな蛍を思わせる丸い輝きが無数に立ち昇ってくる。いつの間にかフィアの足元には、奇妙な魔法陣が出現していて、ゆっくりと回転を始める。
青い光はいつしかエメラルドを思わせる光へと変化し、続いてマグマのように赤く色づいた。最終的にはまるで虹のような多彩な光の共演へと進化し、視界いっぱいに色が広がる。眩しくてたまらないのに、瞬きをする気になれない。
不思議な感覚は数分……いや数秒ほど続いただろうか。いつの間にか光達は姿を消していた。
「い、今の……なんだ?」
「やった! やったー! ねえジーク、見てみて。これお土産っ」
「こ……これが、お土産……か?」
俺はそれを見上げてただ驚き、身動きが取れなくなってしまった。青白い城が目前に現れてしまったからだ。
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