第6話

シンデレラの結婚式だけれど、私たちには招待状はやって来なかった。

本当は心優しいシンデレラが私たちも呼びたいと言っていたらしいのだけれど、王子さまだけでなく王様やお妃さままで反対なさったのだとか。


え?なんでそのことを知っているかって?


私たちに招待状が来なかったことに対しお母さまが異議を申し立てたのよ、「血がつながらないとはいえ、家族を招待しないとは何事か!?」って。

それでわざわざ我が家に城から使いがやってきて…。



「申し上げる。そなたらの所業は花嫁探しの時の言動から察し、本人に訊くもなかなか口を割らなかったゆえ、方々に調査済みである。心優しい令嬢は家族も呼ぶよう依頼してきたが、王自らの判断で招待状を送付せず」



私たちに冷たく言い放ったのよ。

方々調査って、なに!?



「尚、街道パレード時は庶民に紛れての参加であるなら可能とのこと、以上」



この屈辱に耐えられなかったお母さま、思わず使いの者を締め上げようとしたのだけど、



「待って!」



お母さまの暴挙を止めたわ。

なぜかって?私はお母さまにこう耳打ちをしたの、



『しばらくはおとなしく振る舞いましょうよ?シンデレラはお人好しだからきっと許してくれて、おこぼれにあずかれるかもしれないでしょう?』



これにはお母さまも妹も「そうね」と大賛成、あわよくば私たちも宮廷で暮らせるかもしれないのだから…。



成婚日当日。

私たちは目一杯おめかしし、人を押しのけて最前列を陣取ったわ。

教会の鐘が鳴り響き、やがて武装した軍隊に導かれた豪華絢爛な馬車が現れた途端、群衆がワァっと沸き立った。

華やかなウェディングドレスに身を包んだシンデレラはそれはそれで幸せそうで、あの舞踏会で見た美しい令嬢がどうして彼女と気づかなかったのか不思議だったわ。



「シンデレラぁ〜っ!」「おしあわせにねー!!」「おかあさまは嬉しいわ〜!!!」



私たちは力の限り叫んで、手もちぎれんばかりにブンブン振ってみせた。

シンデレラの表情が一瞬曇ったのだけど、すぐ笑顔に戻って手を振り返してくれたの。



「どうです?あの令嬢は私たちの家族なんですよ?」「妹なんですよ!」

私たちは近くにいた人たちに自慢するも、誰も聞いてはくれなくて…。

私たちは気を取り直し城へ向かったの、もしかしたらシンデレラの慈悲で披露宴パーティーに参加できるかもしれないって期待を胸に抱いて…。



「招待状を」



入り口で門番に言われ、



「持っておりませんけど、私たちはシンデレラの身内ですのよ?」



お母さまが強気で押し通そうとする。



「招待状のない者は、何人なんびとたりとも通すなとのお達しです」



頑として受けつけてはもらえず…。



「頭かたいわね!えいっ!」



お母さまはそう言って強引に中へ入ろうとしたのだけど、ガチン!と屈強な二人の門番が持つ斧に阻まれて、とうとう入場できなかったの。



「ええいっ、悔しい!」



私たち、またもや地団駄…。



披露宴は数日間続いてその間の私たちは怒りに支配された日々を送っていたのだけれど、

それからが大変だったの。


ある日我が家に武装した男たちがドヤドヤと入ってきた、



「無礼者!ここをどこだと思っているのです!?皇太子妃の生家と知っての狼藉?!」



お母さまは気丈にも追い返そうとしたのだけど、



「だからこそだ!皇太子妃の継母ならびにその娘たち、皇太子妃虐待容疑で連行する」



一番偉そうな男にそう言われた私と妹は怖くて縮み上がってしまったのだけど、



「なんの権限があってそんなことを!証拠はあるの!?」



お母さまはがんばったけれど、



「皇太子妃を虐待したとはいえ手荒なマネはしたくない、おとなしくしろ!」



男がドスのきいた声で一睨みきかせると武装した男らはたちまちにして私たちを縛り上げた。



「きゃああ〜っ!」「助けてー!!」



もちろん精一杯抵抗したのだけど、



「おとなしくするんだ!」



男のチカラにかなうはずもなく、私たちは連行されたの。



連れて行かれたのは、城内の離れた場所にある陰気な塔の中、そこでいやというほど取り調べを受けたわ。


事の始まりはパレードのときに私たちの姿を見たシンデレラが過呼吸を起こしたことで、その後もお母さまや私たち姉妹を連想するなにかを見聞きするたびパニックを起こしていたらしく、国中で一番の医師に診せたとのこと。


下された診断は、『PTSD』!


別名心的外傷後ストレス障害といって、かんたんに言えば過去に受けたつらい出来事がトラウマになって日常生活に支障をきたすもので、

シンデレラがそれにかかってしまったって話だった。



「そのように言われてしまうとは心外ですわ!わたくしはあのを実の娘のようにかわいがっておりましたのに…」



お母さまは身を守るために必死でウソをついたわ、私もなにか言わなきゃ!と思ったけれど、置かれた状況がただひたすら怖くてなにも言うことができなかったの。

下を向いて震えを抑えるのに精一杯だった。



「皇太子妃に対する虐待だけではない、本来彼女が受け取るはずだった領地に屋敷に家具調度品に宝石類を横領しただけでなく、そなたらの贅沢な生活のために売り払ってしまったそうではないか」



私はこのときになって初めてこれまでの生活がシンデレラが受け取るはずだった遺産の上に成り立っていたのだと知った。



「いいえ!亡くなった夫がのこした借金返済に充てたのですわ!なんてひどいことをおっしゃるのかしら!?」



お母さまの言うことを一瞬信じたけれど、



「ここに証拠がある!」



どこで集めたか束のような証書を見せつけられたお母さま、一気に項垂れたのよね。



「借金はとうに返せて残された遺産の全てが皇太子妃に渡っていたはずだ!それなのに、渡さないどころか使用人扱いしてきたとは、言語道断な上に人道にも反する!」



ここまで証拠を突きつけられたお母さまだったけど、まだ足掻いていたわ、



「でも、わたくしどもが虐めた証拠はないでしょう?」



と…。



「しかたない、彼らを呼びなさい」



やって来たのは、かつてうちで働いていて最後まで残っていた家政婦長!

それと我が家へガラスの靴を持ってきた従者と、なんと王子さま自らが現れた!!



「ええ、自分は王子殿と一緒させていただきましたけどね、そこにいるご母堂が皇太子妃さまに対し暴言を吐くのをしかとこの耳で聴いておりますよ!」



なんていやらしい従者なのだろう!と、忌々しく思ったわ。



「往生際が悪いな、この私も大切な妻に向かって酷い言葉をかけてるの見てたからね」



王子さままで冷たい口調で私たちを蔑むように睨んできて、このときの私はそれのなにがいけないのか、まだ理解ができなかった。




でも、次の家政婦長の証言には驚くしかなかったわ。



「ええ、旦那さまが亡くなってからというもの、奥さまの言動には心が痛みましたよ…なさぬ仲とはいえ、あまりにもひどい仕打ちで…」



「ロレッタ!この裏切り者め!」



お母さまが家政婦長ロレッタの発言を遮ろうと金切り声をあげたのだけど、



「黙れ!」



さっきまで穏やかな態度だった王子さまに一喝されてしまい…。



「奥さまはお嬢さまに対し私たちと同じ仕事をするよう命じたのですよ、お可哀想に当時まだ7つでしたのに…でも心優しいお嬢さまは、当時すでに使用人が少なくなって手が足りなかったところを自ら手伝ってくださったのです」



家政婦長ロレッタの証言によると、なかなか給金をもらえなかった彼女を気遣いシンデレラが逃してくれたこと、残されたシンデレラを心配した家政婦長ロレッタがお父さまお抱えだった弁護士を頼ってなんとかしようとしたものの、お母さまによって罠にはめられ国外追放になってしまったこと、そのことを何度も家政婦長ロレッタがどこかへ訴えても庶民の話はなかなか聞き入れてもらえなかったこと、家政婦長ロレッタ以外に心配した元使用人の何人かが様子を見に行くも、帰って来なかったこと、などなど…。

行方不明になった元使用人について取り調べたところ、なんとお母さまの命令で殺されてしまっていたことまでがわかった。



「まちがいありやせん、そちらのご婦人に殺すよう頼まれたんでさぁ」



うちを尋ねてきた元使用人を手にかけたガラの悪い男まで連れて来られた。



「ウソよ!ウソよ!」



お母さまは必死で否定したのだけど、残念ながら動かぬ証拠を次々と見せつけられ…。

お母さまの悪事を聞いた私、ショックで倒れそうになったわ。



「皇太子妃に対する虐待だけでなく、使用人に対する給与未払いに、弁護士が横領したかのような無実の罪を着せて国外追放、そして殺人まで!この罪は重たい、覚悟せい!」



これでお母さまの処遇は決定したの、



「キィエエエ〜〜〜!!!」



お母さまはナゾの絶叫をあげ、髪を掻きむしったのだけど、もしかしたらあのままおかしくなってしまったのではないかしら?

ああ、私たちはどうなるのかしら?

妹と私は目を閉じて祈るしかなかった。



「さて、そなたたちの処遇だが」



王子さまは私と妹を冷たい目で見下ろしたわ。

美しい顔立ちなだけに怒りの表情は恐ろしかった。



「お父上がまだご存命だったころはうちの妻とは仲良くしていたそうだな」



ああ、そうだった!

でも、お母さまに倣っていつのまにか意地悪するようになってしまっていた。



「あんなに性格の悪い母親に育てられたのではしかたがない、同情する部分はあるのかもしれないが、私個人としては非常に許しがたい」



ああああ、私と妹はどうなってしまうの!?



「本来であれば未来の王妃のPTSDの原因になったそなたらを母親と同じ刑務所へ入れたいとこだが、残念ながら妻がそれを許してはくれないのでね」



え?どういうこと?



「妻が言うには、もしもそなたらの母親が親切であれば意地悪にはならなかったのではないか?と…」



ここで王子さまは一呼吸してから厳かな声で述べたわ、



「この姉妹を国の最北にあり我が国で最も清貧で厳しい修道院へ送るように!」



こうして私と妹の処遇が決まったの。





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