第24話 迷宮内

 俺はカラトたちを連れて迷宮一層を進んでいた。

 このパーティーはバランスが良く、すぐに十分な経験を積んでいると分かった。

「この迷宮はなかなか手応えがあるな。経験を積むにはちょうどいい」

 カラトが戦斧を担ぎ、満足げにニコニコした。

「それはよかった。ここにきて不満といわれてしまうと、ガイドとしては満足してもらえるように、真っ直ぐ二層に進むしかないからな」

 俺は笑った。

「そうだ、二層で思い出したが、かなり凶悪なんだってな」

 カラトが呟くように問いかけてきた。

「ああ、全く別の世界といっていい。魔物も強力になるし罠も多い。この一層で十分に肩慣らししておかないと、二層を進むのは厳しいだろう」

 俺は小さく笑みを浮かべた。

「そうか。分かった、ガイドの意見を尊重しよう。みんな、分かったな」

 カラムがパーティ全員に声をかけ、誰も異論は挟まなかった。

「あの、お昼の時間です。どこか邪魔にならない場所で、ご飯にしましょう」

 コックのアリアが声を上げた。

「そうだな、確かに腹が減った。すぐ近くに、ちょうどいい場所がある」

 俺は先頭に立ち、一行を率いて通路を進んだ。

 歩きはじめてすぐに、まるでここで休憩してくれといわんばかりに、壁が鎌倉形にへこんだ場所に到着した。

「ここだ。結構広いから、全員が入れるだろう。準備ができたら、これのプルトップを開けてくれ」

 俺は空間ポケットから、猫缶を一つ取り出して笑った。

「なるほど、そういうところは猫なんだな。よし、待ってろ」

 手が空いていたカラムが猫缶のプルトップを開け、俺の前に置いた。

「ありがとう、助かった。では、先に頂くとしよう。俺は見張りをするから、ゆっくりメシを食ってくれ」

 俺は手早くメシを食って空洞の前に立ち、最大級に神経を立てた。

 メシを作るとどうしても匂いが漂ってしまう。

 それにつられて魔物が襲撃してきたり、よからぬ輩が襲いかかってくる事もある。

 一番油断するタイミングなので、ここはちゃんとした見張りが必要だった。

「あの、猫缶だけで大丈夫ですか。あり合わせの材料になりますが、猫用の料理もできますよ」

 アリアがそっと声をかけてきた。

「ありがとう。では、気持ちだけ受け取っておく。贅沢になってしまったら、困るからな」

 俺は笑みを浮かべた。


 メシが出来たようで、全員が楽しそうにしている中、何かが接近してくる気配を感じ、俺は簡単な結界を張った。

「さて…」

 俺は通路に出て、なにかが接近してくる方向を探った。

「うむ、階段方向か。ここは一層だからな。新しいパーティがきたのかもしれん」

 俺は呟き、そっと呪文を唱えた。

 感覚からして魔物ではなさそうだが、だからといって安全ではない。

 しばらく経って魔法の明かりの中に現れたのは、いつも通り明るい声をしたパーレットだった。

「おう、猫!」

 パーレットが笑った。

 背後に連れているのは六人編成のパーティで、赤い腕章をつけているので仕事中である事がすぐに分かった。

「なんだ、元気そうだな。こっちは休憩中だ」

 俺は笑みを浮かべた。

「そっか、私たちも休憩地を探していたんだけど、ここは先に押さえられたか。先にいくぞ!」

 パーレットが元気に声を上げ、ゆっくり進みはじめた隊列に向かって俺は会釈した。

「うむ。相変わらず元気だな。まあ、アイツがしょぼくれると、立ち直る手伝いが厄介なのだが」

 俺は笑った。

 そのままなにもなく見張りを続けていると、メシが終わったようで紙製の食器を通路に出し、魔法使いのマージが焼いて処分した。

「よし、進もう。さっきのは同業か?」

 カイルが笑った。

「ああ、仲良くしているガイドだ。馴染んでくると、ひたすらうるさいぞ」

 俺は笑った。

「そうか、面白いな。当たり前だが、ガイドにも色々いるんだな」

 カイルが笑った。

「まあ、俺は生意気とか可愛くないが腕はいいとか、色々言われているらしいが、どうでもいい。よし、準備が出来たら出発しようか」

 俺の声で全員が準備を整え、再び通路を歩きはじめた。


 魔法の明かりの中、ゆっくり通路を歩いていくと、俺はふと足を止めた。

「さて、どうする。迷宮らしい気分を味わってみるか?」

 俺は笑った。

「おっ、なんだ。十分楽しんでいるが、なにかあるのか?」

 カイルが笑った。

「ああ、ある。どことはいわんが、この辺りの壁に鍵穴がある。巧妙に偽装されているが、見つけたら開けてみるといい」

 俺はあえて少し距離を置いた。

「おい、どうする。なにかありそうだが…」

 カイルがパーティメンバーに声をかけた。

「そうですね。せっかくのお誘いです。探してみましょう」

 マージの声に全員が頷いた。

「さて、私の出番です。物探しは、シルフに任せましょう」

 今まであまり出番がなかった召喚士のアリエルが、床にチョークでサモンサークルを描き、短く呪文を唱えた。

 すると、サモンサークルが緑色に光り、蝶のような羽を生やした小さな精霊が無数に現れた。

「みんな、この辺りの壁に怪しい場所がないか調べて欲しいの。分かった?」

 アリエルが笑顔を浮かべると、無数シルフがそこら中の壁を調べはじめた。

「ヒントだ。向かって右側の壁だ。これだけシルフがいれば、すぐに分かるだろう」

 俺は笑った。

「みんな、分かった。右だよ」

 アリエルが指示を出すと、シルフたちが一斉に移動した。

 すると、人間でいうと胸の高さ辺りに、シルフたちが壁を指さして宙に止まった。

「さすがに見つかったな。だが、俺が手を出しては台なしだ。よく調べてみるがいい」

 俺は笑った。

「見つかったといわれても、なんだか分からないと、手出しが出来ないぞ」

 カラムが苦笑した。

「これは、小さな鍵穴ですね。よく見ると分かります。鍵はどこですか?」

 アリエルが少し興奮気味に問いかけてきた。

「うむ、そんなものはない。これは、意地悪でいっているわけではない。こんな場所の鍵など、俺には分からないぞ。そうとなれば、やることは一つだろう」

 俺は笑った。

「なるほどな。ピッキングか…。生憎、今は得意な者はいない。マージ、魔法でなんとか出来るか?」

 カラムの言葉に、マージが頷いた。

「やってみるけれど、あまり複雑な鍵は厳しいかもしれない。ちょっと待って」

 マージが呪文を唱え、小さな鍵穴に右手を押しつけた。

 鍵開けの方法はいくつかあるが、鍵穴に工具を入れて技術で解錠するか、魔法で強制的に開けるかだ。

 カラムたちが取った方法は魔法による解錠だが、これは複雑な鍵には歯が立たない。

 俺もこの鍵は複雑なので、どのようなものかは分からなかった。

「…よし、開いた」

 カチッと音が聞こえ、壁だった場所がスルスルとスライドして開いた。

「な、なんだこれは!?」

 カラムがポカンとした。

「臨時ボーナスだな。ここが迷宮だと実感ができるだろう」

 俺は笑った。

 壁の向こうにあったもの。

 それは、見渡す限りの財宝だった。

「ど、どうすればいいんだ。これは…」

 カラムがワタワタしはじめた。

「好きにすればいい。持って帰るなら、罠チェックは俺がやろう。このまま置いていくのも手だ。どうしたいか決めてくれ」

 俺は笑った。

「どうするったって、これは困るな」

 カラムが苦笑した。

「冒険に資金は必要です。持ち帰って鑑定しましょう。まさに、冒険者として熱くなるパターンですね」

 剣士のナターシャが笑った。

「よし、では罠のチェックをしよう。他の冒険者に見つかると、トラブルが起きる可能性がある。空間ポケットを開いて回収の準備をして待っていてくれ」

 俺はまず室内に入った。

 壁や床などを丹念に調べ、特に問題はなかった。

 ついでに索敵もしたが、特に魔物らしい気配はなかった。

「よし、大丈夫だ。早く回収してしまおう」

 俺が通路に戻ると、カラムたちが全員部屋に入り、財宝をごっそり空間ポケットに放り込んだ。

「よし、先に進もう。おっと、これを忘れたらいかんな」

 俺は空間ポケットから、一枚のカードを取り出した。

 そのカードに書かれた文面は、『お宝は頂いたぜ。ざまあみろ』だ。

 どんな温厚な人でも、さすがにこれはプチッとくるだろう。

 たまには、こういう遊びもいい。

「全く、いい趣味しているな。よし、進もう」

 カラムが全員に声をかけ、俺たちは再び通路を進みはじめた。


 少し進んだ時、客ご一行を連れたパーレットがダッシュで戻ってきた。

「おう、猫。ヤバい、454だ。大至急避難だぞ」

 パーレットが慌てた様子でそれだけいい残し、地上に向かう階段を目指していった。

「なんだか慌てていたが、454ってなんだ」

 カラムが不思議そうに問いかけてきた。

「ああ、454は自分でなにかのギミックを発動してしまった結果、手に負えない事態を引き起こしてしまったという、この迷宮で定められた警告の一つだ。全く、なにをやったのやら」

 俺は苦笑した。

「そうか。逃げた方がいいのか?」

 カラムが心配そうに問いかけてきた。

「まあ、まともなガイドなら、この場で逃げるところだ。しかし、俺はパーレットの尻拭いをして、貸しを作っておくのも一興だと思っている。行くか帰るかは任せる。なにせ命がかかっているからな。俺の一存では動けん」

 俺はカラムに小さく頷いた。

「分かった、先に進もう。アリエル、召喚術で偵察にふさわしいなにかを呼んでくれ」

 カラムの声にアリエルが頷き、床にチョークでサモンサークルを描きいて、呪文を唱えた。

 すると、魔方陣が光り輝き、まるで黒い球体のような数のシルフの群れが現れた。

「みんな、この先を見てきて。よろしくね」

 アリエルの声で、シルフの群れは通路の先に進んでいった。

「さて、なにが出るやら」

 俺は思わず呟いた。

「分からん。あの慌てぶりからして、なかなか大変そうだが…」

 カラムがそっと戦斧を構え、ナターシャが鞘から剣を抜いて構えた。

「まあ、パーレットは大袈裟に騒ぐ傾向があるからな。しかし、454まで宣言したとなるとただ事ではない可能もある。慎重に進めよう」

 俺も多少身構え、偵察のシルフが帰ってくる事を待った。

 そのうちシルフの一団が帰ってきて、アリエルの周りに集まって何やら報告をはじめた。

「あの、みんなが鉄で出来た大きな人間のようなものが暴れていると言っています。心辺りはありますか?」

 アリエルの声に、俺はすぐに分かった。

「うむ。恐らくメタルゴーレムだ。この迷宮の固有種と言われているので、見たことはないかもしれんが、要は鉄で出来たゴーレムというだけで、一般的なゴーレムと変わらん。行くか?」

 俺がああ問いかけると、カラムがニヤッと笑みを浮かべた。

「無論、ここで撤退する気はない。固有種となれば、より見たくなるのが冒険者だ。俺は進む方を取りたいが、異論はあるか?」

 カラムの問いに、パーティメンバーは誰も反対しなかった。

「よし、決まりだ。進もう」

 カイルが笑った。

「よし、分かった。では、進もう」

 俺は笑みを浮かべ、通路を進みはじめた。


 アイアンゴーレムが暴れている場所までは、そう大して距離はなかった。

 ずんぐりむっくりした全身は錆びた鉄で覆われ、今にも壊れそうだったが、そうはいかないのがアイアンゴーレム。

 打撃が加わると自己修復機能が働き、作られたばかりの姿に再生してしまうのだ。

「カイル、物理攻撃はなるべく控えろ。変に刺激を与えると、錆びていない本来の姿になってしまう。魔法で一気に倒した方がいい」

 俺は最前線から中翼に下がり、必要な注意事項を伝えた。

「そうか。珍しいから、一発くらいぶん殴ってやろうかと思っていたんだが、そうもいかないのか。よし、マージ出番だ」

 カイルが声をかけると、マージが頷いて呪文を唱えはじめた。

 その間にも、派手に暴れるアイアンゴーレムは、そこら中を手当たり次第に殴り続け、こちらには気がついた様子はなかった。

「ファイアボール!」

 呪文の詠唱が終わったようで、マージが巨大な火球を放った。

「…まずい。威力が足りない」

 俺は素早く呪文を唱えた。

「悪いな。火力不足だから、サポートする。ほらよ」

 俺は全身の筋肉を総動員して構え、両手を前方に突き出した。

 その手の平から純白の光が生まれて飛び出し、矛のような形でアイアンゴーレムに突き刺さると、一瞬遅れてマージが放った火球が炸裂して爆発が起こった。

「す、凄い…」

 マージが俺を見て一言呟いた。

 あれだけ暴れていたアイアンゴーレムは跡形もなく消滅し、おおよそなにをやっても壊れない床や壁に、僅かに暴れた痕跡だけ残っていた。

「さすが、噂に聞く猫のガイドですね。ビックリしました」

 マージが苦笑した。

「いや、すまん。最初に言っておくべきだったのだが、魔法の効きも悪いのだ。だからタチが悪いのだが、一撃必殺級の攻撃魔法でなければならない。邪魔をして悪かった」

 俺は苦笑した。

「いえ、お陰で無事に倒せました。ちなみに、今の魔法は術名がありますか。ゆっくりやって頂いたので、魔法の構成はしっかり読めました」

 マージが笑みを浮かべた。

「そうだな。せっかく撃つなら、広めようと思ってな。これは、冒険者の…誰だったか、確かスッポンだったか名前を忘れてしまったが、面白いヤツで気軽に教えてくれたのだ。術名は『光の塵』だ。格好いいだろうと、自慢げに語っていたな」

 俺は笑った。

「『光の塵』ですか。いい名前ですね。私も研究してみます」

 マージが笑った。

「よし、全員大丈夫だな。パーレットのヤツ、変な罠を作動させたな。アイアンゴーレムは自然発生はしない」

 俺は笑った。

「ああ、全員無事だ。問題ないなら、先に進もう」

 カイルが笑い、おれたちは迷宮一層をさらに進んでいった。


 一層を一通り巡り、ついに二層へ続く階段までやってきた。

 少しでも不安があれば、俺はここへ案内しないが、カイルたちの実力であれば、まず問題はないだろうと判断しての事だった。

「うむ。これから二層に下りる。すぐに草原があるが、油断はするな。魔物どもの狩り場だからな」

 俺は一言忠告してから、パーティの先陣を切って階段を下りていった。

 階段に罠は付きものだが、幸いにしてそれはなく、俺たちは二層の玄関口であるアルデ平原に降り立った。

「これは凄いな。迷宮の中とは思えない」

 カイルが口笛混じりに声を上げた。

「まあ、見た目はいいがな。さて、急いで先に進もう。長居は無用だ」

 俺は笑みを浮かべ、アルデ平原を急ぎ足で突っ切り、最短距離で通路に入った。

「ここまで進めば大丈夫だ。ところで、俺の感覚だともうすぐ夕方のはずだ。魔物どもが活動する気配で分かる。今のうちに、キャンプを張る事にしよう。この先にちょうどいい場所がある。急ごう」

俺はこの通路の先にある、やはり壁にへこみがある場所を目指した。

ここは、アルデ平原からの通路に入ってすぐなので、こんな場所にテントなど張ったら大顰蹙ものなので、少しでも奥に進む必要がある。

長くここにいるので、歩きの歩幅で大体の距離が分かる。

 約五十メートル先にあるへこみにたどり着くと、中は空で誰も使っていなかった。

「よし、着いたぞ。魔物どもが騒ぎはじめている。急いで準備しよう。俺は力になれないから、見張りをしている。頼んだぞ」

 俺はさりげなく周辺を警戒しながら、全員に声をかけた。

「分かった。では、急ごう。全員、急いでテントを組み立てろ」

 カイルの声が聞こえ、全員が一斉に動きはじめた。

「…きたな」

 魔物の気配を感じ、俺はファイアボールの呪文を詠唱した。

「ほらよ。これでも食ってろ」

 俺は通路の先に向かって火球を飛ばした。

 数舜後、派手な悲鳴が聞こえ、魔物の気配が完全に消えた。

「ふん、大した魔物ではなかったな。まだ、時間が早いのだろう」

 それきりなにもなく、ちらりと見ると、もうテントの設営が終わり、コックのアリアが屋外コンロを組み当てていた。

「よし、もう結界を張っていいな。そろそろ、危険な時間だ」

「ああ、頼む。しかし、助かった。ガイドなしだと、ここまで無駄な時間を取られずにすんだし、財宝まで手にできた。これは、地上に戻ったら、ビルヘルム殿にボーナスを追加しないといかんな」

 俺の言葉にカイルが笑った。

「そうだな。まあ、受け取るとは思わないとは」

 俺は笑みを浮かべた。

「なるほど、あくまでもプロなのか。だったら、こっそり置いておこう。さて、この二層の話しを聞かせてもらおう。メシでも食いながらな」

 カイルが笑った


 空間ポケットからいつもの猫缶を取り出すと、すかさずアリアがそれを奪った。

「猫缶ばかりではダメです。猫用の薄味料理を作りました。お召しあがり下さい」

「いや、それだけで十分なのだが…」

 俺は苦笑した。

「ダメですよ。待って下さい」

 アリアが笑みを浮かべ、皿に料理を持ってやってきた。

「ちゃんと冷ましてあります。鰹を鶏肉の煮込みです。当然、ネギは入っていませんよ」

 アリアが笑った。

「うむ。では、頂こう。美味そうだ」

 俺はアリアの料理を平らげ、猫缶とはまた違う味を堪能した。

「美味かったぞ。ありがとう」

 俺は空になった空になった器を回収して、炎の魔法で焼却して処理しているアリアに声をかけた。

「お粗末様でした。久々に手が掛かる料理でしが、それが好きなのでたまには腕によりを振るいますよ」

 アリアが笑った。

「それは楽しみだな。ただ、水と食料には限りがあるからな。そこを考えておいてくれ」

 俺は笑みを浮かべた。

「はい、分かっています。ところで、今回はこの二層までですか。本当はカイルが聞くべきですが」

 アリアが笑った。

「おいおい、今聞こうと思ったところだ。ここは、ガイドに委ねる事にしよう」

 カイルが笑った。

「そうだな。まずはこの二層を周ってみよう。それをみて判断する。三層は魔物も罠も桁違いたからな…ん、誰かきたぞ。結界はちょっと待とう」

 しばらく待つと、パーレットとアリスが顔をみせた。

「おう、猫。やっちまったぞ!」

 パーレットが頭を掻いた。

「なんで元気そうなんだか。まえ、変に落ち込まれても困るがな。ところで、アリスまでどうした?」

 俺が問いかけると、アリスが苦笑した。

「ああ、パーレット迷宮からビルヘルム堂に飛びこんできてな。454発生などと宣言したせいで、私とパーレットが出動する事になったのだ。まあ、アイアンゴーレムの残骸でなにがあったか分かったが、落ち着いて判断すれば造作もない事だ。全く、迷惑な話だ。ちなみに、ビルヘルム堂の店主の計らいで、他の店には連絡には黙ってある。本来なら、手すきのガイドたちが、一斉に突入するところだった。気を付けろ」

 アリスがため息を吐いた。

「全くだ。どころで、二人とももう時間だろう。一緒に泊まっていけ。確認するが、パーレットの客はどうした?」

 パーレットが客をどこかに置き去りするような事はしないというのは分かっていたが、一応確認のために聞いた。

「もちろん、地上に返したよ。私が店で休んでもらっている。死者はゼロ、かすり傷数名といった感じかな。大事ないよ」

 パーレットが笑った。

「あのな…。まあ、無事ならいい。これで、まだお前にガイドの仕事は依頼しないだろうな。あの人数なら、そこそこ稼げただろうに」

 俺は笑った。

「それがね、変わった客でまた私に依頼したいんだって。ガイド業界じゃ珍しいよ」

 パーレットが笑った。

「それは珍しいな。まあ、今後は気を付けろ。さて、結界を張るぞ。早く俺の後ろにこい」

 俺の声にパーレットとアリスが反応して、後ろに経つと俺は呪文を唱えて強力な結界を張った。

 前も使ったが、内からの空気や湿度などの調整を出来るが、外からはなにも遠さないという大変便利なものだった。

「うむ。これでよし」

 俺は満足して思わず呟いた。

「へぇ、これが噂の猫結界か。見るのは初めてだ」

 パーレットが笑った。

「私も初めてだ。これができるのは、シュナイザーくらいだろう」

 アリスが口笛を吹いた。

「まあ、教えてもいいのだが、魔力のコントロールが繊細だから難しい。そこさえクリアできれば誰でも出来る。しかし、俺の見立てではまだ難しいな」

 俺は笑った。

「なんだ、残念!」

 パーレットが笑った。

「まあ、私は結界は苦手だからな。あれば便利くらいにしか思っていない。やはり、私はライフルだ」

 アリスが笑みを浮かべた。

「あの、お二人とも食事はまだでしょうか。残り物ですが、よろしければ用意しますが」

 声をかけてきたアリスに、パーレットとアリスが驚きの表情を浮かべた。

「あの、私はアリアでコックです。料理作りがメインで、このパーティに参加しています。よろしくお願いします」

 アリアがペコリと頭を下げた。

「専任コックがいるとは、珍しいな。私はアリスでこっちがトラブルメーカーのパーレットだ。よろしくな」

 アリスが笑った。

「ちょっと、誰がトラブルメーカーのパーレットなんだよ。私はパーレット。真面目なガイドだよ!」

 パーレットが苦笑した。

「まあ、そんなところだ。明日には戻るのだろう?」

 俺が聞くと、アリスとパーレットが頷いた。

「さすがに、店待機を長くするわけにはいかないからな。一夜明けたら戻る」

 アリスが笑った。

「私も戻るよ。珍しい客がいるからね」

 パーレットも笑った。

「分かった。気を付けてな。おっと、確認しておかないとな。カイル、テントのスペースに空きはあるか」

 俺が聞くと、カイルが笑みを浮かべた。

「問題ないぞ。女用の大形テントはスカスカだからな。メシも食ったし飲むか?」

 カイルが笑った。

「あっ、それいいかも!」

 パーレットが声を上げると、アリスがゲンコツを落とした。

「少しは反省しろ。まあ、私も飲むがな」

 アリスが笑った。

 こうして、俺たちは地下二層の夜を明かす事になったのだった。

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