第10話 失敗も経験

 迷宮内での夜は、なるべく動かない事だ。

 また、匂いも問題になるので、本格的な料理は出来ず、食事は味気なく簡単なものになってしまう。

 俺は猫缶なのでいつもと変わりない。この時は猫でよかったと思うところだった。

「さて、これで野営の準備は整ったな。この結界は、硬いうえに外部からは分かりにくい。まあ、うっかり躓いても転けるだけだ。なんの問題もない」

 俺は笑った。

「それでも迷惑です!」

 ミントが笑った。

「ふん、引っかかる方が悪い。さて、あとは眠くなるまで好きに過ごせばいい。この結界には通用口があるが、あまり外出はしない方がいいだろう。キラービーのが動きが活発になる頃合いだ」

 俺は笑った。

 キラービーとは、迷宮内をフラフラ飛んでいる、全長一メートル程度のスズメバチだ。

 毒針に気をつけていれば倒すのは容易だが、夜になると集団で襲いかかってきて、野営の準備が遅れたパーティは、これでやられてしまう事も多々ある。

 対抗策は早めに野営の準備をするか、狭い通路に誘導して火炎系の魔法で一気に焼き払うかだ。

 まあ、最大毎時五百キロメートルで飛ぶ事を考えると、後者はかなり難しい。

「まあ、まずは初歩だな。ミント、これはオヤジから教わっているか?」

 俺はミントに問いかけた。

「はい、細かい魔物の種類までは教わっていません。しかし、このキラービーの事は、詳しく説明を受けています。刺されたたら、命とりになるという事で…」

 ミントの言葉を遮って、俺は笑った。

「集団で刺されたらの話しだ。単体なら大した事はない。ほら、きたぞ」

 俺の言葉に併せるかのように、激しい羽音が結界の外から聞こえてきた。

「ほら、きた。ここは人が多いから、絶好の狩り場だ。準備していないパーティは最悪だぞ。まあ、やっておくか」

 俺は呪文を唱え広場の天井付近から、地上三メートルまでリング状に焼き払った。

 キラービーたちの悲鳴が聞こえ、あとは自分でなんとかしろと、笑みを浮かべた。

「あ、あの、この結界は…」

 ミントが困惑した表情で呟いた。

「なに、ちょっと特殊な結界でな。外から加えられた力については受け流すが、内側からの力は透過するんだ。つまり、ちゃんと考えて使えばワンサイドゲームが出来る。俺は勝手にトーチカと呼んでいるがな」

 俺は笑った。


 慣れの問題で、夜に漂う不気味な空気やどこかで戦闘しているのか、激しい爆音や剣の擦り音、魔物どもの叫び声…。

「これが、変に癖になるので困る。なあ、アリスもそうだろう?」

 今は皆が寝てから数時間。見張りも兼ねてテントから出て、ポケットからマタタビ酒がが入っている缶から一口飲んだ。

 そっと自分のテントから、アリスが這い出してきて俺は小さく笑った。

「そうだな、面白くなかったら、とうにどこかに行っている。この迷宮は実に不思議だな」「まあ、ここは過去の人が作った場所だ。それだけで、十分ロマン溢れるだろう?」

 俺は笑った。

「ロマンか。冒険者たちに必須のものだな。お前も気をつけろ。好奇心旺盛だからな」

 アリスが笑った。

「いわれるまでもない。だから、今もこう生きていきている。猫は常に好奇心と警戒心の綱引きだ。まあ、おおよそ警戒心の方が勝つがな」

 俺は笑った。

「それもそうだな。私は久々の迷宮だから、なんかこう緊張しているな。ビルヘルム堂なら、嫌でも仕事が回ってくるだろう。それを期待しての店替えだ」

 アリスが笑った。

「まあ、そうだな。お前がいた店は悪くはないんだが、値段が高め設定だからな。よほど儲かっている連中でないと、紹介できないんだ。そんなの滅多にいないから、そろそろ気が付いてもいい頃なんだがな。ガイドと名が付けば売れる時代は終わったとな」

 俺は苦笑した。

「確かにそうだな。実は前にいた店はいつも自転車操業だった。それで価格を上げたり下げたり…。ある意味、信用出来ない店になってしまったな」

 アリスが笑った。

「まあ、ビルヘルム堂は極端に安いが、こっちはどちらかといえば、紹介業務で稼いでいるからな。安価とはいえ、ガイドが俺がしかいないとなれば、ガイド料ではやっていけないだろう。残念だが分身は出来ないからな。まあ、この辺りはオヤジが考える事だ」

 俺は笑った。

「そうだな。私やミントたちが稼げるようになれば、また違うと思うがな。まあ、私も従業員だ。経営に口を挟む気はない」

 アリスが笑った。

「俺は最低限の範囲で、口を挟む程度だ。オヤジも時々採算が合わない事を、盛大にやらかすからな」

 俺は笑った。

「さて、お前もちょっと寝ろ。見張りを交代しよう」

 アリスが腰を伸ばした。

「特に見張りに出たわけではないのだがな。まあ、見張ってくれるならそうしてくれ」

 俺は笑みをうかべ、自分のテントに戻った。

 一人の時間が過ごせる。それも、この迷宮の使い道だった。


 翌朝、俺の腹時計が狂っていなければ、五時頃だろう。

 俺はテントから出て、空間ポケットから『これであなたはもう大丈夫。ビルヘルム堂・ミニ』と書かれた看板を床に置いた。

「まあ、こうやって小銭を稼ぐのも悪くないか」

 俺は笑みを浮かべた。

 ちなみに、これは俺の提案ではじめたもので、どれほど稼げているか分からないが、この広場限定で余裕があればビルヘルム堂とに似た店を開いている。

 地上と違うのは、これから出発するパーティではなく、迷宮内でのメンバー探しや食料などの補給、あとは資格を持っているオヤジが作った魔法薬を少々扱っている。

「おっ、今日はいたな。パーティを作たんだが、メンバーが亡くなってしまってな。二層のアルデ平原だ。警備隊は一階しかいかないし、連れて帰る余裕もなかったから、その場で火葬して鎮魂を済ませた」

「そうか、珍しいな。またソロに戻ったのかと思ったぞ。この白い紙を持って、その辺で待っていてくれ」

 俺は笑みを浮かべ、起き出そうとしたミントにハンドシグナルで『待て』と合図をした。

 ミントが引っ込むと、アリスがそっと顔をみせてテントから這い出してきた。

「な、なんだと。なんで、アリスがこんな場所にいるんだ!?」

 先ほど白い紙を渡した男が、目を丸くした。

「…よし」

 男がアリスと会話をはじめた隙に、俺は素早く移動して地下二層への階段を下った。

 階段を降りてすぐがアルデ平原で、壁や天井が淡い青色に明滅しているので、明かりの魔法は不要だが、魔物の気配がそこいら中から感じられ、威嚇するためにあえて使ったのだ。

「…いたな」

 それほど奥にいかないうちに、床に縛り倒された女性の姿があった。

「全く、ご丁寧に猿ぐつわまでしやがって。待ってろ」

 俺は猫サイズのナイフで猿ぐつわを外し、そこでツンとした薬品臭を感じた。

「…ゴルゴリか」

 これは、罵倒と大声を上げ続けるという、薬品というより毒の一つだった。

 こんな場所で大騒ぎしたら、たちまち魔物どもの餌食あろう。

「こ、この…」

 俺は女性が叫び出す前に魔法で寝かせ、その間に手足を縛る縄を切った。

「全く、こんな場所でなにを馬鹿やっているのやら…。どうせ、無理矢理だろうが、それはあとだな」

 俺は小さく息を吐いた。

 ゴルゴリの効き目は、せいぜい五分程度。

 魔法よる眠りはキャンセル可能なので、問題はその間に魔物たちに襲撃されないかだ。

「まあ、こうしておこう」

 俺は呪文を唱え、俺が開発したゴーレムの準備に入った。

 これは毒液で構成された人形だが、ただ立たせて置くだけで、基本的にはなにもしない。

 しかし、隠そうとしない猛烈な毒臭によって、よほど荒れた魔物でなければ、まず引っ込むだろう。

「さて…」

 俺は女性を中心にして十字を描くように魔法陣を描き、昨夜使った強固な結界で俺を含んでテントのような形にしてから、呪文を唱えた。

 四体のゴーレムが魔法陣の上に出現した。

「これで、よほどバカな魔物でもなければ、これでこない。時間を待とう」

 俺は苦笑した。


 要するにこういうことだ。

 村の中や酒場の客で女性を巧みに誘い出し、ガイドは付けずに迷宮に入り、最短距離で地下二層へ向かうと、まだ魔物が大人しい間にやる事をやって、あとはこうやって放っておけば、魔物が処分してくれるというゲスな考えだ。

「フン…アイツも堕ちたな。真面目でストイックな熟練冒険者だったのだが…」

 俺は地面で健やかに眠っている女性に目をやり、回復魔法を使ってから辺りの様子を伺った。

 ゴルゴリ特有の薬品臭は消えたが、ここで馬鹿騒ぎされてしまっては、色々と面倒な事になるので、今は寝かせておいた方がよかった。

「ん?」

 俺が使ったポイズンゴーレムの間を何事もなく通り過ぎ、警備隊員が二名やってくる姿がみえた。

「やれやれ、やっとお迎えか。でも、ありがたい」

 俺はポイズンゴーレムを強力な火炎で焼き捨て、結界を解除した。

「妙な場所で出会ったな。その被害者がこの女性か?」

 警備隊員は笑みを浮かべた。

「ああ、そうだ。上は片付いたか?」

 俺は苦笑した。

「ああ、上はアリスが仕切っているが問題ない。あの男は抑えてあるから、あとは被害者だけだ。眠っているのか?」

「ああ、ゴルゴリが使われていた。知っているだろうが、こんな場所で大騒ぎしたらどうなるか、火を見るより明らかだからな。それを狙って、救出を邪魔しようとのだろう。まあ、自分の退避時間が欲しくて、猿ぐつわしている段階で甘いがな。あの馬鹿はどうでもいいから、この子を一層のビルヘルム堂・ミニに連れていってくれ」

「それは心得ている。お前も荷車に乗れ。その方が速いからな」

 警備隊員が笑った。

「そうだな。あの広場からここまでそれなりに距離があるし、それを全力で走ったからさすがに疲れた」

 俺は苦笑した。


 警備隊員が二人で女性を担いで階段を上がり、階段出入り口においてあった荷車の荷台に女性を乗せ、ついでに俺を乗せてなるべく速いコースを辿っていった。

 途中何度か魔物が出たが、急ぎの用事だったので、それらは俺が攻撃魔法で相手の顔を見ずして潰し、警備隊員の二人はひたすら荷車を引いていった。

 荷車に乗って、どれほど経った頃だろうか。

 前方に広場がみえてくると、俺は小さく笑みを浮かべた。

「やれやれ、メシ作りか…。こんな場所でやるとはな」

 荷車が広場に到着すると、ミントがテント脇で大鍋の面倒を見ていた。

 まるで、その匂いに惹かれたように、やってきた冒険者たちが、残らず列に並んでいった。

「おっ、帰ってきたな。三人に状況を伝えてある。男はすでに警備隊員が別の場所で拘束してある。後は、本職に任せよう」

 荷車に寄ってきたアリスが、小さく笑った。

「そうだな。それでは、あとは任せた。少々疲れたな」

 俺は苦笑してから、荷車から降りた。

 俺は十人ほど集まっていた警備隊員に目で合図を送り、荷車の荷台で眠っている女性の体を押さえた。

「迂闊にやると危険だからな。警備隊員、気合いを入れろ」

 俺は小さく笑みを浮かべ、呪文を唱えた。

 個人差があるが、魔法で寝かせると数時間は覚まさない。

 それでは遅いので、俺はここで起こそうと思ったのだが、そうすると一瞬パニック状態になってしまう事がある。

 さて、荷車の上で光りが小さく弾け、ガタンと揺れたが、警備隊員たちが必死に『警備隊です。落ち着いて下さい!』と連呼していると、女性は落ち着いたようで泣く声が聞こえた。

「これでいいだろう。女性のあしらいは警備隊の方が得意だろう」

 警備隊は俺と違って、この迷宮村を訪れる人の面倒をみるのが仕事だ。

 当然、迷宮にしか相手にしないガイドより村の中の状況を知っていて、こういうデリケートな事件に対応する訓練も受けていると、俺はそう聞いていた。

「ああ、安心しろ。今回はお手柄だったな。『事情聴取』の結果、少なくとも十名以上はやってるそうだ。とりあえず、右指の二本、パリッと爪を剥いだらもう根をあげた。つまらん」

 警備隊員の一人が笑った。

「全く…。いつもながら過激だな。まあ、俺は口出ししないがな」

 俺は苦笑した。

「あっ、シュナイザーさん。お帰りなさい」

 ミントが笑った。

「ああ…。これは何の騒ぎだ?」

 俺は苦笑した。

「はい、アリスさんがシュナイザーさんが戻るまで時間がかかるので、朝ご飯を作った方がいい。暇つぶしにもなるだろうという事だったので。なにかトラブルですか?」

 ミントが笑みを浮かべた。

「いや、野暮用だ。それにしても、迷宮で炊き出しとは余裕だな。スライムでも落ちてきたら、せっかくの鍋が台なしだぞ」

 俺は笑った。

「それは気にしていましたが、今のところは問題ありません。うっかり大量に作りすぎてしまったので、朝ご飯セットにして売ったらどうかと、アリスさんから提案がありまして、サラダとスープ付きで銀貨二枚。売れ行きは上々です」

 ミントが笑った。

「なるほど、そういうことか。なら、俺の猫缶も頼む。腹が減った」

 俺は笑った。


 もはやメシ屋となったビルヘルム堂・ミニは、こんな予定ではなかったのだが、先に進むどころではなかった。

 メシを買って近くの岩や床に陣取った冒険者たちが食っている様子を見ると、俺は苦笑しを禁じ得なかった。

「全く、こんな場所でメシなんて食ってたら夜になってしまうぞ」

 普通、夜間でもなければ、この広場はちょっとした休憩くらいで、とっとと先に進むような場所だった。

 俺は勝手に四人用テントを拝借して、ビルヘルム堂と同じように斡旋業務に当たった。

 ここで紹介するのは冒険者だ。

「うむ、人間の魔法使いか。そうだな、お前の支えになってくれそうで、頼りになりそうな者は、あそこの緑の紙を持っている二十四番辺りが合致しそうだ。この紙を持っていけ」

 俺は料金を受け取ると、緑の紙に肉球スタンプを押し、それを客に渡した。

「そこの規約にも書いてあるが、例えマッチングに失敗しても、返金は出来ないからな。俺もいい加減な事はいってないし、ダメならそこに立っているアリスに仲立ちを頼め」

「よし、分かった。俺も男だ、体当たりしてみるぜ!」

 巨大な斧を担いだ、筋肉ムキムキの汗臭そうな男が紹介した魔法使いの若者に向かっていった。

 一応断っておくが、俺が紹介するのもされるのも、冒険者だ。

 要するに、恋人探しや結婚相手を探すパーティではない。

「なんだか、たまに勘違いされるが、さっきの男は無事にパーティを組めたか」

 俺は笑みを浮かべた。

 ちなみに、ここでも紙の色には意味がある。『緑』は安全、『白』はやめておけだ。

 こればかりは、ガイド屋を斡旋するよりはるかに難しい。

 この辺りは、俺の勘と会話から感じられる雰囲気がものをいうが、ここから地上に戻る手間が省け、俺たちの危険も兼ねて金貨三枚は決して高くはないだろう。

「シュナイザーさん、材料がなくなりました。閉店です!」

 ミントが笑顔を浮かべた。

「そうか、よし看板をしまおう」

 俺は看板を空間ポケットに入れ緑の紙と白い紙を片付けた。

 テント元通りにして、まだ白い紙を持ってうろうろしているバカ野郎どもは無視することにした。

 本来なら四人用のテントにアリスと俺が追加で入り、少々手狭ではあったがこれからの行動を話し合った。

「盛大に料理を振る舞っていたが、こちらの食料はどうだ?」

 俺は笑った。

「え、えっと…。全員で一食ならなんとか。豆スープだけですが」

 ミントが肩で息を吐いた。

「ほら、これだ。まあ、分かっていたが、カイルとウレリック、ついでにアリス。分かっていたんだろう。こういう時は止めてくれ。俺はあえて気が付かないフリをしていたがな」

 俺は笑った。

「うむ、いっても聞かないからな。説教しても意味がないぞ」

 ウレリックが笑った。

「ウレリックでも匙を投げたほどだ。俺なんか勝ち目はないぞ」

 カイルが笑った。

「やれやれ、調子に乗りやすいか。覚えておこう」

 アリスが笑った。


 結局、先に進むだけの食料はなく、水も殆ど残っていないので、ここで戻るという決断をしたのは、ミントだった。

「ごめんなさい、やってしまいました」

 テントを畳みながら、ミントがため息を吐いた。

「まあ、一つ経験したな。無駄ではない」

 俺は笑みを浮かべた。

「そうだな。私も駆け出しの時は、よくやらかしていた。迷宮で料理する時は、簡単なものを作って、素早くテントに隠れて食うのが一番だ。今日は上手く使われてしまったからな」

 アリスが笑みを浮かべた、

「まあ、これも迷宮だ。よし、急いで帰ろう。出入り口までは、寄り道しないで真っ直ぐ向かえば、四時間もかかるまい」

 俺は笑った。

 そろそろくると思っていたが、やはりしつこく白紙を持ったままウロウロしていた連中が、俺に敵意を向けてきた。

「おい、相手にもされなかったぞ。変な手を使いやがって。料金を返せ」

 このやたら筋骨隆々としたオッサンを含めて、残っていた三十人ほどが一斉に剣を抜いた。

「フン…」

 俺は呪文を唱えようとしてやめた。

 数秒後、いきなりなだれ込んできた警備隊員によって、あっという間に排除された。

「おい、きているなら合図をくれ。僅かにテンポがずれたら、まとめて燃やすところだったぞ」

 俺は笑った。

「いやなに、今日は迷宮がざわめいているようだからな。状況確認にきたんだ。威力偵察のためだと腕こきを連れてきた。これから、地下一層の偵察を兼ねて掃除だ。お前たちは帰りか?」

 隊長が問いかけてきた。

 なお、威力偵察とは、戦闘も辞さない強硬な偵察だ。

「それは、パーティリーダーのミントに聞いてくれ。今日は俺は半分客だからな」

 俺は笑みを浮かべた。

「えっと、はい。今から出入り口に向かいます」

 ミントが笑みを浮かべた。

「そうか。気をつけてな」

 隊長は笑みを浮かべた。

「ああ、そっちもな」

 俺は笑った。

「ああ、そうだ。あの男だが、何度説教しても聞かん。そもそも、罪を犯したという認識すらも薄い。となれば、あとは本職に委ねる事しかなかろう。ここの警備隊に認められているのは、逮捕までだからな。女性は問題ない。今は入院中だが、芯は強いようだから、俺たちも安心している」

 団長は笑って、武装した一団を率いて迷宮の奥に向かっていった。

「さて、進もう。まだ時間はあると思うが、早いに越した事はない」

 俺は笑みを浮かべた。


 途中、何度か戦闘はあったものの、俺たちは無事に迷宮を出てビルヘルム堂へと帰還した。

「やけに遅かったな。夜の迷宮を体験させたのか?」

 カウンターにいたオヤジが笑った。

「たまたまそうなっただけだ。アリスがいるとはいえ、夜間戦闘訓練はしていない。まだ早すぎる」

 俺は笑みを浮かべた。

「そうだな。まだそれより先にやる事がある。提案なんだが、次に行くときは二層までいこうか。一層だけでは、いい加減飽きてしまうだろう」

 アリスが笑みを浮かべた。

「そうだな、俺も同意見だ。やってみよう。代表してミントに聞くが、それで問題ないか?」

 俺が問いかけると、ミントが笑みを浮かべた。

「正直かなり怖いですが、必要なことだと思うので異存はありません」

 ミントが笑みを浮かべたのだった。

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