女神の塔(十二)

「天にあまねく光の精霊、我が意に従いの者を撃ち抜け!【光の矢ライトアロー】!」


 目もくらむ光、耳を貫く轟音、巨塔を震わせる衝撃波。剣士が剣を打ち交わすように、魔術師は破壊魔術の基礎である【光の矢ライトアロー】を撃ち合えば互いの力量を把握することができる、魔術学校でそう習った。それに照らし合わせれば……




 何だってんだコイツ、ふざけた魔力してやがる。アタシが【光の矢ライトアロー】で撃ち負けるなんて、そんな馬鹿なことがあってたまるか。


「へえ、すごいじゃん。これはユイちゃんも持て余しちゃうよねー」


「ちっ、ふざけた魔力しやがって。何食ったらそうなるんだよ」


「何でも食べるよー?あ、干し葡萄レーズンだけは駄目」


「そんなこと聞いてねえよ!」


「えー?聞いたよね今」


 魔力だけじゃねえ、性格までふざけてやがる。だが勝負はアタシの勝ちだ、衝撃でもろくなっていた石柱がデブの頭の上に倒れてきやがった。


「はっ、いいザマだ!喰らえ【光の矢ライトアロー】!」


 そう。アタシはただの魔術師じゃない、女神アネシュカの加護を受けた『幸運の魔女』だ。こんな白豚に負けるわけが……




「いやあ、大丈夫これ?階段崩れちゃうんじゃないの?」


「ちっ……」


 瓦礫の中から無傷の白豚が現れた。左手で【物理障壁フィジカルバリア】、右手で【魔術障壁マジックバリア】を同時に発現させるとは只者じゃない。しかもコイツ、道化のふりして周りがよく見えてやがる。


貪欲どんよくなる火の精霊、我が魔素を喰らいその欲望を解き放て!【火球ファイアーボール】!」


「【火球ファイアーボール】?いいよ、相手したげる。貪欲なる火の精霊、我が魔素を喰らいその欲望を解き放て!」


「ちいっ……」


 クッソ熱い。【魔術障壁マジックバリア】が無ければ熱風だけで大火傷やけどを負っていたところだ。こっちの方が先に詠唱を始めたはずなのに発現は同時、火球はあっちの方が一回りもデカい。全くもってふざけてやがる。


「あちゃちゃちゃちゃ!なんだよもー」


 炎の欠片をまとってちぎれ飛んだカーテンが風に舞い、白豚のケツに火がついた。

 そうだ、アタシは『幸運の魔女』。この世の全てはこっちの味方だ。


「無慈悲な母たる大地の精霊、その手に抱かれ物言わぬむくろとなれ!【岩棺ロックコフィン】!」


 これでどうだ、対象を永遠に石の中に閉じ込める中級魔術【岩棺ロックコフィン】。アタシを相手に油断したことを石の中でゆっくりと後悔すればいい。


「邪魔」


 ……だが、対象は小うるさげに長杖ロッドを一振り。【岩棺ロックコフィン】は呆気あっけなく解除された。どこまでふざけてやがる。

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