女神の塔(九)
途切れることのない人波が押し寄せてくる。
町から女神の塔のある高台まで、黒々とした人の列が連なっている。まさか五万を数えるサントアエラの人々全てがここに集まっているわけでもなかろうが、そう思わせるほどの
天を
彼らは広場に立つ巨大な女神像に祈りを捧げ、その前に置かれた木箱に次々とお金を投げ入れていく。これが心からの信心による喜捨であれば問題は無いのだが、そのような者がどれだけいることか。
「
純白の神官衣に身を包んだ絶世の美女が姿を現すと、多くの者が足を止めた。嫌というほど見覚えのある美女は優雅な動作で両手を広げ、
「迷える者、苦しむ者、恵まれぬ者、貧しき者。
ミオ様だ、ああお美しい、来て良かった、あのお方こそ女神の生まれ変わりに違いない……そのような声が聴衆から漏れる。
この世ならぬほどの美貌と美声は確かに人を惹きつけることだろう。ミオさんの聡明さと計算高さがあれば組織内で成り上がることも難しくはなかっただろう。
だがそれだけではあるまい。これほどの権勢を得るには彼女の胸に光る宝玉と、後ろに影のように控える魔術師の力が不可欠だったはずだ。そのいずれもが私と因縁深いなど、偶然とは思えない。
「祈りなさい、願いなさい。富める者は富を!貧しき者は幸運を!それぞれが差し出せば平等な世が訪れます」
続いて現れたのはリラちゃん。真新しい神官衣に身を包み、
「
「我らに女神様の祝福あれ!」
歓喜に満ちた顔、湧き上がる歓声、鳴りやまない拍手。それらはミオさん達が塔の中に姿を消すまで続いた。
「ふざけてる、こんなの……」
私は周りに聞かれぬよう小さく
だが『女神の涙』、ミオさんの胸を飾る宝玉の力は疑いようがない。『女神の涙』を手にしたフレッソが異常な立身を遂げ、それを奪ったミオさんが短期間で教団の最高幹部に上り詰め、確かに武力で上回る私を簡単に制したのだから。あの力、運命を捻じ曲げるほどの幸運という力が、他者の幸運を奪い取ったものだとしたら。
そのような物が存在してはいけない。奪われた者はもちろん、奪った者も結局は不幸になるに違いないのだから。
「行こう、ラミカ」
「どこ行くのー?」
「リラちゃんは『塔の頂上で幸運を捧げる』って言ってた。その前に止めなきゃ」
「まじー!?あれ登るのー?」
ラミカがそう嘆いたのも無理はない、地上から見上げた『女神の塔』は頂上が見えないほどの高さがある。ラミカほどの魔術師ならば自由に空を飛ぶ【
「早くミオさん達に追いついたら頂上まで行かなくていいよ」
「いやいやいやいや、むりむりむりむり」
文句を言おうが嘆こうが他に道は無い。この
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