女神の塔(八)
真夜中の地下牢、向かいの部屋からは安らかな寝息が聞こえてくる。リラちゃんは温かい夕食をたっぷり食べて眠りについたようだ。
何の前触れも無く壁に大穴が開いた。
いや、気づいてはいた。大地の精霊が盛大に渦を巻きつつ近づいてきていたから。
「よー」
【
「……助けに来てくれるのはいいんだけどさ、もう少し静かにできない?」
「いいじゃん、細かいことは」
ともかく【
「……警戒が緩すぎる」
「どうしたのー?」
「ううん。なんでもない」
あのエリューゼがいるというのに、地下牢にしても鍵にしても魔術師への対策が全く施されていない。壁が板張りであれば【
おまけに見張りどころか巡回もほとんど無く、奪われた
……余裕か。私は下品にも舌打ちしそうになった。
ミオさんはおそらく私を閉じ込めておくつもりはなかったのだろう。彼女は勝負を持ち掛けた際、「わからせてあげたくなっちゃう」と言っていた。エリューゼと同じように私を
【
「むにゃむにゃ……おねえさん、どこいくの?」
「ごめんね、起こしちゃって。リラちゃんも一緒にここを出よう」
「リラはいけないんだ。だって、アネシュカさまに『こーうん』をささげなきゃいけないもの」
「よく聞いてね、リラちゃんは
「いいの。リラが『こーうん』をささげたら、みんなしあわせになるんだもん。みんな、おなかいっぱいごはんたべられるんだもん。リラこわくないよ」
「そんなの駄目だよ。リラちゃんにも幸せになる権利が……」
「けんり?」
「ええとね、その……」
遠くから足音が聞こえてきた。巡回の者だろうか、もうリラちゃんを説得している時間が無い。無理にでも連れ出そうと強く手を掴む。
「だめー!おねえさん、わるいひとなの!?」
「ユイちゃん、誰か来るよ!早くー!」
「……ごめんねリラちゃん、必ず迎えに来るから!」
壁に開けられた大穴に飛び込むと、ラミカが大地の精霊に命じて入口を塞いだ。
暗闇の中で溜息をつく。ミオさんもエリューゼも、リラちゃんのような子を神に捧げて心が痛まないのだろうか。私にはどうしてもそれが信じられない。
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