女神の塔(六)
優雅な足取りのミオさん、忠実にその後を歩くエリューゼに続いて大広間に足を踏み入れた。
大理石の床、一つ一つに装飾が施されたアーチ状の飾り窓。清貧を
十数歩の距離をおいて向かい合ったミオさんは、やはり一流の剣士には見えない。左手に
だが背中を汗が伝う。どこか違和感を覚える。『嫌な感じ』としか言えないが、五感の全てが警告を発している。
歴戦と言って良い私のこと、危険には敏感なつもりだ。剣を手に向かい合えばそれだけで相手の実力を測ることができる。だがそれだけに、明らかに格下の敵から放たれる得体の知れない力というものに対して理解が追いつかない。
「いいわよ。いつでもどうぞ」
「……では参ります」
自らを迷わせる糸を斬り払うように
だがミオさんに剣が届こうかという寸前、磨かれた大理石の床に足を滑らせて大きく姿勢を崩した。突き出された
円形のテーブルを挟んで再び向かい合う。ミオさんの余裕の笑みに対して、私は厳しい顔をしているだろう。どうにも落ち着かない、頭に響く警告が鳴り
「どうしたの?
「……」
再び床を蹴ろうとした瞬間。ミオさんがテーブルクロスを強く引くと、載せられていた燭台がこちらに飛んできた。身を躱したところへ宙に舞ったテーブルクロス越しの刺突、剣先が顔を
改めて距離を詰めようとするが床に落ちたテーブルクロスが足に絡みつき、またしても姿勢を崩す。危ういところで刺突を受け流してようやく繰り出した反撃も虚しく空を斬る。先程からの戦いで確信した、剣の技術も身体能力も経験もこちらが数段勝っている。ただおかしな偶然が重なっただけだ、純粋な戦いであれば負けるはずがない。
だが。必殺の斬撃を読み切ったようにテーブルの陰に身を隠すミオさん。
戸惑う一瞬のうちにテーブルが蹴り倒され、衝撃をまともに受けて仰向けに倒れてしまった。身を起こす間もなく胸に細剣を突きつけられる。
「私の勝ちね。少しは理解できたかしら?」
ミオさんは優雅な手つきで細剣を鞘に納め、身を
……この感覚には覚えがある。フレッソ・カーシュナー、以前『女神の涙』を所持していたあの男と戦った時と同じだ。最初から相手が勝つという結果が決まっていて、私が何をしようとそれは途中経過でしかない。そうとしか説明がつかない奇妙な戦いだった。
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