女神の塔(五)
元
彼女はエリューゼと同じく、王都フルートの貧民街で生まれ育った。ごみの山を漁り、泥水を
「私はこの通り容姿に恵まれていたわ。それは幸運なこと、人生の成功を約束するもの、大抵の人はそう思うわよね。でも底辺では違うということ、
彼女は文字通り、恵まれているものを奪われた。奪った者は貧民街の少年達であったり、通りがかりの男であったり、時には実の父親だったりしたという。
「それでも私はまだ良かった。双子の妹は十四歳のとき性病で亡くなったわ。『お姉ちゃんは私の分まで幸せになってね』と言って」
表情からも口調からも、白磁のカップに注がれた
「私と妹の差は何?同じ日に生まれて、同じように育って、同じように
「……」
ミオさんは誰に話しかけているのだろう、少なくともその瞳に私は映っていない。
「運命を
白く繊細な指が胸の宝玉をなぞる。乙女の涙のように透明なはずのそれは、
「私は……」
確かに私は自分の
無意識のうちに視線を落とした。左手の小指に
フェリオさんからこれを頂いたとき、彼は言った。「力を持つ者は、それを使うときはよく考えなければならない。魔術でも、武術でも、権力でも。君なら正しく力を使えると思う」と。この人は、ミオさんは力の使い方を誤っている。
「私はそうは思いません。人から何かを奪えば、その人が不幸になるだけです。自分が力を得たなら人のためにそれを使う、助けてもらったなら感謝して少しだけ大きくして返す、本当に強ければそれができるはずです」
「ふふ、本当に良い子ちゃんね。分からせてあげたくなっちゃう」
「何をですか」
「ユイ。
「……武力のことであれば、その通りです」
「いざとなれば私を斬り捨てられる、最悪の場合でも魔術で逃げることができる。だから一人で乗り込んで来たんでしょう?」
「……ええ」
「いいわ、その勘違いを正してあげる。
私は判断に迷った。ミオさんが武勇に優れているとは聞いたことがない、むしろ騎士階級として最低限の武術を修めているだけと思っていた。
逆に自分を
「ああ、この子には手出しさせないわ。心配しないで」
先程から一言も発しないエリューゼ、表情からは何も読み取れない。彼女がなぜアネシュカ教団に入ったのか、ミオさんとの関係はどうなのか。気になるところは多々あるけれど、今それを尋ねる機会は無さそうだ。
「……わかりました」
柔らかい客椅子から立ち上がり、左手で腰の
これがある限り私が敗れることは無い、そう思っていた。
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