テゼルト平原の戦い(二)
ハバキア帝国西部、テゼルト平原。平原とは名ばかりの低木と石ころばかりが広がる不毛の地。後年この地名が広く知られることになったのは、今日ここで行われた天下分け目の一戦のためだ。
ハバキア皇帝
赤く縁取られた漆黒の鎧、本当に私達と同じ
「
対する諸侯軍はクロエ砦とベスチア市に僅かな守備隊を残し、ユーロ侯爵軍を中心とした七〇〇〇余りがここに
公式に総大将はマールス侯爵と称しているが、老齢であり実戦経験も無いため、実質的には主力であるユーロ侯爵軍の将カチュアがそれを務めることになる。
開戦前に互いの正しさを主張することは兵の士気に直接影響する。全軍がメドルーサの豪語に
「何してるのカチュア、何か言い返さなきゃ」
「……」
困ったような顔でこちらを見るカチュア。先刻は数千の軍勢に号令を下したはずの彼女が、叱られた子供のように押し黙ってしまった。
『
「カチュア様はこういうの苦手なんだよ。あんたが行きな」
「私!?どうしてですか!?」
「適当なこと言って、敵に
そんな事が得意とは思わないけれど、自分の力不足を虚勢と意地で
「メドルーサ将軍!」
おそらく両軍の中で最も巨大な男に、最も小さな存在が呼びかけることになった。
「私は兵士でもなく、帝国民でもない。本来ならこの場に立つ資格はありません」
声の大きさでも存在感でも、敵将とは比較にならない。ただ思いの強さだけは負けないようにと声を張り上げる。
「でも一言だけ言わせてもらいます!
もう一度息を吸い込み、愛用の
「懸命に今日を生きる人達のため、帝国の明日のため、親友カチュアのため!ここで
一瞬の空白。何もない荒野を乾いた風が通り抜ける。
やはり私には荷が重かっただろうか、と思った瞬間、背中から地鳴りのような喚声が噴き上がった。
ある者は剣を掲げ、ある者は槍を突き上げ、ある者は地を踏み鳴らす。収まりようもない狂騒の中、先程まで小さくなっていた総大将が号令を下した。
「
「
数千の声がそれを復唱。石ころだらけの大地を無数の軍靴が踏みつけて、後のハバキア帝国史に残る『テゼルト平原の戦い』が幕を開けた。
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