欠けた黒の月(五)
風が強く雲の流れが速いこの日、諸侯軍の前線拠点たるクロエ砦は皇帝軍の猛攻に
砦から降り注ぐ投石に次々と
知性に
赤く縁取られた漆黒の鎧を
「奴が来るぞ!」
泥まみれ油まみれになりつつ矢や油を持って階段を往復していた私は、その声に顔を上げた。
『奴』、この戦場でそう呼ばれる者は敵将メドルーサに違いない。
果たして『奴』は来た。三十騎ほどの騎兵を従え、味方であるはずの妖魔どもを蹴散らし、馬蹄を響かせて一直線に城門へ。
その手には私の身長の倍はあろうかという長大な得物。聞いたところでは、槍の側面に三日月形の刃を取り付けたようなこの武器は『
そのメドルーサが
さらに頭上で旋回させて矢を斬り払い、その隙間を縫って体に達した数本も黒鋼の鎧の表面を滑るだけ。頭上から浴びせられた油も手近の
「うわははは、このメドルーサと武を競おうという強者はおらぬか!ならば良し、震えて待て!」
その体躯、その
これではカチュアが敗れたのも無理はない、そもそも生物としての格が違うのだから。
だからと言って放っておくこともできない。この様子ではメドルーサ一人に城門を破られ、無数の妖魔になだれ込まれてしまうかもしれない。そうなれば諸侯軍の、カチュアの命運も尽きてしまう。
「貪欲なる火の精霊、我が魔素を喰らいその欲望を解き放て!【
左手小指の指輪に精神を集中させて詠唱、
片手で振り回す『
「何それ……嘘でしょ?」
下級妖魔なら数匹まとめて消し炭と化す中級魔術、【
それだけではない。
「ぼけっと突っ立ってんじゃないよ!」
ポーラさんが
肩に得物を担ぎ悠然と立ち去る人外の化物。薄く笑う形に口元を
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