フルート市防衛戦(四)
奇妙なことになった。
夕闇迫るエルトリア王都フルート。赤く色を変えた噴水を前に向かい合う将軍と女性剣士は、同じ意匠の黒い軍装を身に
この王都を侵すのも、最後にそれを
「いいの?カチュア」
「うん。ここで友達を見捨てたら、一生後悔する」
簡単に言うようだが、彼女は帝国に属する侯爵家の出自だ。私のような者が国を
「『
「友人のため、将軍の名誉のため、ユーロ侯爵家の将カチュアがお相手します」
ガルバラン将軍が
こんな事態だというのに不謹慎極まりないが、実のところ私は興味が湧いてしまった。この
そのとき刃鳴りは起こっただろうか。石畳を蹴る足音はしただろうか。それほど静かな、澄んだ水が流れるような動作だった。打ち下ろしを絶妙な角度で受け流したカチュアが、懐に飛び込み首筋へ一閃。それを受け止め、柄を繰り込んでの反撃を見せたガルバランもまた尋常ではない。
五十合は撃ち合っただろうか。いや、その表現は正しくないかもしれない。竜巻のように旋回する長大な
私などでは二人の間に割って入ることすらできず、少しでもカチュアを援護しようと背後から牽制するものの、ガルバランは意に介さない。
次第に色を濃くする空の下。いつ果てるともない
「射撃中止!駄目だね、魔術に守られているようだ」
「じゃあ俺の出番だな。ユイ、交代だ」
ようやくカミーユ君とロット君が来てくれた。これで簡単に勝てるとは思わないが、私達三人にカチュアが揃えば何だってできるような気がする。
激戦を重ねてことごとく兵を失い、異国の地でただ一人残った
次第に空が暗さを増しても、西の空に星が
「内なる生命の精霊、我に疾風のごとき加護を。来たりて
あとは
私に向けて薙ぎ込まれた
そのまま振り払われそうになるのを懸命にこらえ、鎧の中央に埋め込まれている宝玉に左手で触れる。
「【
本来さしたる用途も、詠唱する必要も無い生活用の基礎魔術。宝玉に亀裂が入る感触が確かに伝わってきた。
これでどうだ、と思う間もなく
起き上がりざま手近の石ころを拾い上げ、敵将に投げつける。それは狙い違わず鎧に当たり跳ね返った。カチュアもロット君も一瞬振り返っただけだが、カミーユ君には伝わっただろう。飛来物から身を護る【
「カチュア、ロット君、伏せて!」
「
カミーユ君の声に応えて数十の矢が紫色の空に向けて放たれる。
「
多くのエルトリア兵を
◆
ずいぶんと長いお話になりましたが、ここまでお読みくださりありがとうございます。
ひとまず目前の危機は去り、親友との決着を見て一段落というところですが、もう少しだけお話は続きます。
残る物語はあと二つ、話数にして三十数話です。どうか最後までお付き合い頂けますようお願い致します。
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