フルート市防衛戦(一)
「空を駆けし自由なる風の精霊、その意のままに舞い狂え!【
敢えて私らしくもない大規模魔術を使ったのは、
ハバキア帝国軍は既に王都フルートの守備隊を
当初五千は下らないと聞いていた帝国軍は、情報工作を受け、補給隊を失い、ザハール峠の激戦を経て既に二千を大きく割り込んでいるだろう。それでもなお戦意を失わないのは将軍ガルバランの雷名ゆえか、
しかしそれにも限界があった。多くの兵が疲労し、負傷しているところに前後から挟撃されては立て直しようもない。一人、また一人と乱刃にかかり異国の地に倒れていく。
どうやら勝ったかと思ったところ、戦塵の中に覚えのある顔を見つけた。一見特徴の無い中背の体で長剣を舞わす男と、装飾過剰のローブを
「カイナ……どうしてここに」
「はん?てめえに言う必要があんのかよ」
いつもは丁寧に
そして何より右手首から先が無い。他でもない、私がリーベ城塞に潜入したときカチュアに斬り落とされたためだ。
男の方はファルネウスさん。同郷の幼馴染エレナさんを巡るすれ違いはあったものの、対等の立場で話してみれば迷いを抱えた一人の男性だった。そのような一面を見てしまった以上、彼を単なる敵として見るのは難しい。
ただ私の思いとは関係なく、この二人が恐るべき
ロット君がいれば、と思った自分に驚いた。いつの間にか私は彼を頼る側になっていたから。
そこに本当に彼が現れて、もう一度驚いた。白を基調としたはずの軍装が、いったい何者と戦えばこうなるのかと思うほど赤く染まり、焼け焦げ、千切れ裂けている。
「お前はカイナと決着をつけろよ。俺はあの
「う、うん……」
ファルネウスさんへの複雑な思いをロット君に伝えるわけにはいかない。いくらロット君が強くなったと言っても手加減ができるような相手ではない、迷いが生まれればロット君を失うことだって考えられるのだから。
「ふん、お前が最後の相手というわけか。まあ良かろう」
「妹が世話になったみたいで悪いな、そこは感謝しとくよ」
もはや『
あんなに頼りなかったくせに。鼻の下を伸ばして服の中を覗いていたくせに。都会の誘惑に負けて変な女に引っかかったくせに。こんな時に私を助けに現れるなんて。ロット君のくせに。
細身の長剣と幅広の大剣が激しく打ち交わされたが、私はもうロット君のことを心配していない。今の彼にそんなものは必要ないはずだ。
「カイナ、ここにいるとは思わなかったよ。ファルネウスさんも」
「ふん、恵まれた
「恵まれた?あなたは私達を
「そういうとこだよ、数ばかり多い下等種族が!そんなお前らから息を
カイナはそう言うが、私には少し分かるつもりだ。
能力的に優れた者が劣る者に従わなければならない。しかも息を
「私はあなたが
「くそっ、分かったふりしやがって!だからお前は気に入らねえんだよ。私の方が強いんだ!黙れ、
「お断りだよ。そんなの強いってことじゃない!」
足元で大地の精霊がざわつくのを感じた。迷わず横に跳ぶと、一瞬の間をおいて地面から数本の鋭い突起が飛び出し空を突いた。
【
「
「我が内なる生命の精霊、来たりて不可視の盾となれ!【
薄い刃を打ち鳴らすような甲高い音。カイナの詠唱付きの魔術でも、私の
「天に
「天を覆いし闇の精霊、我が手に来たりて光を裂け!【
「貪欲なる火の精霊、我が魔素を喰らいその欲望を解き放て!【
カイナの杖から放たれる続けざまの破壊魔術。だが
激しく呼吸を乱すカイナにはもう魔術師としての力は残されていない。右手に
「は、はは……来いよ。てめえなんか左手一本、棒切れ一本で十分だ」
「もうやめよう、カイナ。勝負はついたよ」
「ついてねえよ馬鹿が!
同期生を斬る決心がつかない私を
これは【
「何だこれ!てめえか、プラタレーナ!」
いつの間に来たのか、プラたんが私の後ろに控えていた。ハーフエルフの彼女は大地の精霊の扱いに
「……カイナ、もう終わり」
「てめえ、
「……ユイちゃん、許してくれるって。もう終わりにしよう?」
「……くそがっ!!」
石壁に叩きつけた杖が真二つに折れ飛んだ。栗色の頭が力なく垂れ下がる。
思えばプラたんも異種族、それも混血ゆえ両種族から差別を受ける存在だ。亜人種自治区での一件では危うく敵対するところだった。
この子も一歩間違えばカイナと同じように闇に飲まれていたかもしれない。彼女ならばカイナの気持ちを
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