リーベ市攻略戦(一)
岩肌がむき出しの壁、それに比べると平らに
ここは城塞都市リーベに向かって北西から続く地下道、地上でいえばそろそろ城塞の内部に入る頃だろうか。
地下道は数十年前に作られたものを、司令官カミーユ君の指示で改修したものだ。何本かの横道は魔術師が交代で【
「それにしても暗いですね。もっと照明を増やしてくれれば……」
「しっ。来たよ」
暗い地下道のためか、それとも予測される迎撃に対してか。不安のため普段よりも口数が多い小隊員を片手で制して立ち止まった。
「ユイちゃん、また来ちゃったのー?せっかくお友達に助けてもらったのにさあ」
暗闇の向こう、よく見知った女が待ち構えていた。
丁寧に
その背後には
「あんたの指輪に【
「気づいてたよ、それくらい。今日はカイナと決着をつけに来たの」
「はあ?この前ボロ負けしたの、もう忘れた?これだから
「覚えてるよ。この前のことだけじゃなく、カイナにされたこと全部。でもこれで忘れてあげる」
私が
「
詠唱が早い。杖から放たれた火球も尋常な大きさではない。もはや作られた可愛らしさだけが取り柄の二流魔術師という仮面を捨てたカイナは、学年主席アシュリー以上の実力を隠そうともしなかった。
勝利を確信して高笑いするカイナ。しかしその巨大な火球は、私の数歩手前で掻き消えた。
「なにそれ!【
【
この通路を改修した際、等間隔で【
カイナは用心するべきだった。自分も知っている地下道をわざわざ使ったことに。一度敗れた私が再び現れたことに。地下道の照明の間隔が開きすぎていることに。そして、私の後ろに控える兜を目深にかぶった兵士が黒い
「くそっ!
「逃げるの?私ごときから」
「ばーか!誰が逃げるかよ!」
カイナが
その影が交差した刹那、鬼の首が宙に舞った。こんな時でも
「カチュア!お前、寝返ったのかよ!」
「どの口が言うんだか!」
言い返したのは私だ。カチュアはもともと口数の多い子ではないし、自分の正しさを言葉で主張したりしない。それに今の彼女にはやるべき事がある。
薄暗い地下道で鈍い光が走る。ただ速く、ただ正確に。血でぬかるむ足元をものともせず、無数の妖魔の死体を踏み越えて。どす黒い返り血を顔に浴びても眉一つ動かさず、一言も発せず、ただ斬り捨て、斬り進む。
背中を護るはずの私が死体の山につまずき、血だまりに足を滑らせて追いつけない。今まで好敵手だと思っていたカチュアの本当の力は、『
「どけ、馬鹿ども!どけってんだろ!」
カイナが声まで引き
しかし
それが地面に落ちるより早く
「クソが!クソが!
味方であるはずの
「カチュア、怪我はない?」
「うん。大丈夫」
返り血に染まった兜を投げ捨てたカチュアは、まだ怖い目をしていた。手拭いを取り出して顔を拭いてあげたのは、少し時間を作って落ち着いてもらうためだ。体の傷は
「ごめん、カイナに逃げられちゃった」
「こっちこそごめん、辛い役目を押し付けちゃって」
黒い
カミーユ君はカチュアに協力を願うにあたり、いくつか条件を出していた。
一つ、妖魔以外の帝国兵を害しないこと。
一つ、帝国兵に姿を見られないこと。
一つ、あくまでエルトリア軍には
確かに条件は揃っていた。だが妖魔とはいえ帝国に
カミーユ君は魔術師に司令部を盗聴されていると気付いた時から、それを逆手に取る策を考えていたという。私とカチュアを陥れたカイナも、彼には完全に行動を読まれてしまっていた。
私の位置を特定できるカイナが
「僕の予測が外れたならそれでいい。他の部隊もいるんだ、無理せず帰還してくれればいいよ」
頭上で重々しい音が響いた。小刻みな振動が暗い地下道を揺らす。
司令官の言う通り、他の部隊が行動を開始したようだ。
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