リーベ市防衛戦(二十一)

「ラミカ、早くしないと置いて行かれるよ?」


「まってー」


 超ぽっちゃり体形の魔術師が両手に荷物を下げて、ぽてぽてと走ってくる。本人は大真面目なのだろうが、短い手足を必死に足を動かしても一向に前に進んでいないのがもどかしい。私とプラたんが荷物を一つずつ受け取って荷車まで運び、最後に「よいしょ」と声を揃えて荷台にラミカを引っ張り上げた時には、三人とも汗だくになっていた。


「はあはあ……ありがとー」


「ふう……ラミカ、ぽっちゃりしすぎ」


「お菓子ばっかり食べるのやめなよ、私達のためにも」




 城塞都市リーベの西門から、続々と人間と荷車の列が吐き出されていく。

 司令官がこの町の放棄を決めてから丸三日。エルトリア本国側で待機していた友軍が街道を固め、民間人の大半は既に退避を済ませた。あとは私達リーベ駐留軍を残すのみだ。


 小隊の点呼を済ませて城門前に整列すると、どこか懐かしさのようなものを覚えた。苦戦続きで、同期生の寝返りに遭って、敵に捕らえられ、何度も怪我をして、親友と命を削り合った場所だというのに何故だろう。


「やあユイさん、準備は済んだかい?」


「いま終わったよ。カミーユ君はどう?」


「荷物は先に送った。僕で最後だ」


「なにも司令官が最後まで残ることないのに」


「僕は前線で体を張ることはできないから、それくらいしないとね」


 攻勢が無いのは当然、おそらく撤退は無事に済むだろう、とカミーユ君は言っていた。帝国軍はこのリーベ城塞に苦戦していた、それを無条件で明け渡すというのにわざわざ攻撃する必要もないだろう。ただ追撃には用心する必要があるけどね、と。




 リーベ城塞を出たところで後ろを振り返る。砂岩で造られた古い城壁、それに絡まるつた。六十日余りを過ごしただけの城塞都市に愛着が湧きつつあったのは、幾人もの軍学校時代の友人と共に過ごせたからだろうか。


「すぐに帰って来られるよ」


 私の心を見透かしたように、カミーユ君が振り返りもせず告げた。


 その通り、彼はすぐこの町に帰ってくるつもりでいる。そのためには私とカチュアが重要な役割を担うことになっているらしい。

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