リーベ市防衛戦(二十)
ハバキア帝国軍ガルバラン将軍、エルトリア北部国境に向けて進発。
ミハエルさんが帝都から持ち帰った情報の中で、最も重要なものがこれだった。
エルトリア王国は南北二本の街道のうち、南側から侵攻したハバキア帝国軍をこのリーベ城塞で
これについて、リーベ城塞司令官であるカミーユ君は驚いた様子もなく説明してくれた。
「僕がガルバラン将軍でもそうするね。苦戦している南側にわざわざ大軍で押し寄せても意味がない、こちらの戦況が
現皇帝ゲルハルトの登極に反対していた諸侯はあらかた討滅され、表立って逆らおうとする者はいない。
だが帝国内の治安は安定せず、併合したばかりの都市国家群も情勢は安定しない。皇帝は
「
皇帝ゲルハルトの下にはいつの頃からか複数の
「彼らは
「そんな……!」
馬鹿な、と言いたい。けれど彼らが胸に抱えているであろう
「情報の
会議室の視線が黒髪の捕虜に集まった。カミーユ君は情報の真偽を判断するため、捕虜であるカチュアを同席させていた。ただし質問に答えられなければそれで構わないという条件は、彼女の心身の状態に配慮したものだ。
「帝国内の情勢は
「ありがとう。ではミハエルさんの情報を
すぐに手を上げる者はいない。私もまだ頭の整理がついていない、なにしろ事が急だし重大すぎる。
「それじゃ、僕の案を出すよ。リーベ城塞は放棄する」
「……!?」
皆の反応に構わず、カミーユ君は机の上で両手を組み合わせた。
「という選択肢もあると思うんだ、あくまで一つの案としてね。なにしろ王都が陥落してしまえば、いくらこの城塞で勝っていても意味がない。ミハエルさん」
「何です?」
「ミハエルさんは本来帰還すべき王都ではなく、先にこのリーベ城塞に情報をもたらした。つまり王都からの指示を待つ余裕はない、すぐにでも王都の救援に向かってほしい。そう判断したという事ですね?」
「ご明察の通りです」
ミハエルさんが両手を広げて感嘆した。いつも人を食ったような態度の彼も、カミーユ君の洞察力には素直に感心したようだ。
「それにカイナが帝国に寝返って、こちらの内情を知られてしまった。それを
「……」
「それは無理だよ、司令官」
カチュアに代わってつい口を挟んでしまった。立場を逆にして見れば、私がロット君やラミカに刃を向けるようなものだ。カチュアだってユーロ侯爵家の騎士達と戦うなどできるわけがない。それに彼女は重傷を負った捕虜だ、私達に協力する理由も指示に従う義務もない。
「ああ、違うんだ。帝国を裏切れとも、帝国兵と戦ってくれとも言わない。でも相手が妖魔の
カミーユ君がいくつか条件を示すと、カチュアは目を伏せつつも
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