リーベ市防衛戦(十七)
「……ユイちゃん、早く来て。カチュアが来た」
「カチュアが!?」
帝国軍と交戦中のプラたんから【
昨日の傷口はラミカの【
だが、それよりも戦況とカチュアの様子が気になる。彼女は「何とかする」などと言っていたが、そんな器用な事ができる子ではないはずだ。
城壁に続く階段を駆け上がり、【
「カチュア……?」
黒髪黒目、引き締まった体に黒い
「ユイちゃん……どこ?」
「カチュア、私はここだよ」
私を見つけたカチュアは、
それに近くで見ると、黒い軍装を濡らすのは返り血ばかりではなさそうだった。矢傷、刀傷、いくつも深手を負っている。単身でここまで来ることができたのは実力ばかりでなく、エルトリア兵が彼女と私に配慮してくれたためだろう。
「……ユイちゃん、会えて良かった」
「わざわざ会いに来てくれたにしては、ずいぶん手荒だね」
「……無事で良かった。安心したよ」
「逃がしてくれたことは感謝してる。そっちは……」
「それじゃあ決着をつけようか」
会話が噛み合わない。どうやら話し合いに来たのではなく私との決着をつけるため、ただそれだけのために重傷の身を引きずってここまで来たようだ。
おそらく捕虜の私を逃がしたことで軍を追われたか、それ以上の罰が下されたか。事情はわからないが進退
全てを
あれから何があったかは知らないし、原因を作ったのは私なのかもしれないが、今こうして生きているのに。誰よりも辛い思いをしてこの生を積み重ねてきたのに。絶望して全て投げ出すつもりか。
親友にそんな思いで人生を閉じてほしくないし、私だって親友殺しの後悔を背負いたくはない。だが今はどんな言葉をかけても彼女に届くことはないだろう。
「わかった。お相手するよ」
数百の視線が注がれるも声を発する者はない、奇妙な静寂。
無造作な初撃を受け止めると、黒と銀、色違いの
すぐに間合いを詰めての連撃。強く激しくはあるが、力が入りすぎて鋭さに欠けている。今度はすべて受け止め、最後の刺突にも空を突かせた。
最初の仕掛けといい今の連撃といい、カチュアらしくもない。彼女は本来、相手の力を利用して緻密な組み立てで優勢を築く型の剣士だ。こんな力任せの剣を振るう人では決してない。
続く遠間からの打ち下ろし。斜め下からの斬り上げ。雑だ、こんなものが今の私に届くわけがない。私が憧れた流水のような
「カチュア!!」
目の前で大声を上げられて驚いたのだろう、ようやく目が合った。これまでの彼女は私を見ているようでいて、何も目に入っていなかったのだから。
「そんなんじゃないでしょ、あなたの剣は!」
力を込めて押し返すと、カチュアは後ろに数歩よろめいた。疲労も負傷もあろうが、それほど無駄な力が入って姿勢を崩していたということだ。
「全部出しなよ。そのために来たんでしょう?」
「……そうだね」
かつての親友が大きく息を吐き出すと、
そう、そうこなくては。宿敵が希望を失ったまま勝ったところで意味はない、あの強さを取り戻させた上で負けを認めさせてやる。絶対に。
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