リーベ市防衛戦(十四)
ハバキア帝国
カイナの
天幕の中には私しかいないが、
それに私を捕らえたカチュアは軍学校時代の友人だ。そう手荒な扱いはしないだろうという期待もある。
天幕が開き、その友人が入ってきた。周囲の気配を探って後ろ手に入口を閉め、膝を抱えて隣に座る。
「……ユイちゃん、また会ったね」
「まあ、近くにいるからね」
「でも、ゆっくり話す時間はなかったね」
「今ならあるよ」
そのやり取りに、カチュアは頬を緩めてこちらを向いた。彼女のこんな表情は久しぶりに見る、それこそ軍学校以来だろうか。
「何から話そうか」
「手紙の返事、なかなか書けなくてごめんね」
「それは私も。しばらく帝都にいて、監視も厳しかったから」
「帝都かあ、私も行ったよ」
「知ってる」
「そうだった。帰りに会ったものね」
私が
本当に久しぶりだ。軍学校時代の友達が、最近では密偵と追手だったり、敵同士だったりと目まぐるしく立場を変えて、今度は敵将と捕虜。いや、今だけは友達同士で良いのではないか。
「
「わかる?」
「わかるよ。使い込まれて傷だらけだけど、何度も修復した
「カチュアがくれたんだもの。大事にするよ」
「そっか、嬉しいな」
「残念ながら取り上げられちゃったけど」
「仕方ないでしょ?敵なんだから」
「そうだね」
「そうだよ」
せっかくの再会だが、ゆっくり語らっている時間は無い。捕虜として主将の陣まで連行しなければならないとの事、当然といえば当然だ。
天幕を出ると、童顔の騎士が気遣わしげに敬礼した。ロシュフォールさん、三騎士のうち赤い髪の巨漢。ポーラさんにさんざん蒸留酒を飲まされたとき一緒に談話室にいて、確かあの時もこんな表情をしていた。
「これ、返すね」
「え……?」
ユーロ侯爵軍の陣を出たところで、カチュアに
「主将のアリフレート将軍はね、
「でもそれだとカチュアが……」
「私なら大丈夫。上手くごまかすよ」
「そういうの苦手なくせに」
「何とかするって。早く行かないと見つかっちゃうよ?」
「……わかった。カイナに気を付けて、あの子、思った以上に曲者だよ」
「わかった。ユイちゃん……元気でね」
「う、うん……」
彼女の表情と言葉から不吉なものを感じ取ってはいたが、この場で余計なやり取りをしている時間もない。指輪を
一度だけ後ろを振り返ると、親友の姿が遠くに見えた。
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