リーベ市防衛戦(八)
ファルネウスさんの剣技は特筆すべきものではない。カチュアはもちろんエアリーや、もしかすると私にも及ばないかもしれない。
だが
私とて一人前以上の剣士と自負していたが、ものの数合も打ち合わぬうちに数歩の距離を
「草木の友たる大地の精霊、その命の欠片、集いて
足元の下草が、ちぎれ飛んだ葉が、渦を巻いて
「ふん……」
その中でさえ難なく私の斬撃を受け止め、すぐに反撃の一閃。
「おい。俺に『
舌打ちせんばかりの表情を、ファルネウスさんは浮かべた。
この人は私に何を期待しているのだろう。それが何かはわからないが、戦況にも私自身にも余裕は無い。できるのは死力を尽くして戦うことだけだ。
「内なる生命の精霊、我に疾風のごとき加護を。来たりて
周囲のエルトリア兵も私とファルネウスさんの動きを
「この人は私が抑えます!皆さんは拠点を守ってください!」
「
ファルネウスさんの言葉は事実を言い表している。【
だがここは最終防衛線、そう簡単に
下草を蹴り、森の中を高速で移動しつつ剣を合わせること十余合。
「草木の友たる大地の精霊、その長き手を
地面に付けた
「失望させるなという意味だったのだが、伝わらなかったか?」
だが。ファルネウスさんが無造作に長剣を舞わし、足に力を込めると、絡み付いた根が残らず切り離され、ちぎれ飛ぶ。
同時に【
帝国兵の侵入が止まらない、私自身もこのままでは勝ち目が無い。この機を逃せば撤退も難しくなるだろう。
「隊長、もう無理です!」
「先に行ってください。ここは……」
私が、と言いかけて言葉を飲み込んだ。私がどうする?先程のように敏捷性を強化したところで、ファルネウスさんとの間にはどうにもならない実力差がある。
「悪いことは言わん、こちらに
知らない相手でもない、それに彼の声からは敬意と実直さが感じられる。
だが簡単に降伏などできない。小隊の皆に対する責任もあるし、カミーユ君の信頼にも応えたい。
それにまだ、私には最後の手段が残っている。
【
「内なる精霊、生命の根源たる者よ……」
「それは駄目だろ、ユイ」
肩に置かれた力強い手。しばらく聞かなかった懐かしい声。
「こういう時は兄貴に頼るもんだぜ」
見上げるような長身、一回り分厚くなった体。ぼろぼろの軍装に使い込まれた大剣。
それら
「ロット君……だよね?」
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