ハバキア帝国潜入調査(七)
プラワの町から逃げ出した私は、夜が明けぬうちに再び戻ってきていた。
一度逃亡した密偵がまた舞い戻っているとは思うまい、むしろ町の外を捜索しているだろう。私にはこの町でやり残した事がある。
「ここか……」
フェリオさんの剣の鞘には【
既に亡き者にされて剣だけが保管されている可能性も無くはないが、私達をエルトリアの密偵と知っての包囲網だったのだから、生かして情報を得ようとするはずだ。
町外れにある石造りの小さな建物。おそらく大部分の施設は地下に作られているのだろう。
朝も早い時間だというのに、常に
「自由なる風の精霊、その歩みを
何食わぬ顔で角を曲がり、私は建物の前に姿を現した。
「何者か!?」
おそらくそう言ったのだろうが、その声は【
「安らかなる生命の精霊よ、彼の者を深き眠りに
くたりと倒れ込んだ兵士を物陰まで引きずり、革製の
受付のような小部屋に座っていた兵士に【
大部屋のような部屋から複数の気配を感じたので、その入口に【
突き当たりの階段から地下に下り、椅子に座っていた看守には出会い頭に【
立て続けに魔術を唱えて、私は目的の鉄格子の前に立った。良かった、まだ拷問を受けたり手足の腱を切られたりはしていないようだ。
「ユイ君……どうして」
「フェリオさん、あなたに文句を言いに来ました」
看守が持っていた鍵で鉄格子を開け、立てかけてあった安物の剣を手渡した。フェリオさん自身の剣は大部屋にあるようなので回収は無理だろう。
「わかった、後で聞こう。君の指示に従うよ」
静かに階段を上り、建物を出た。入口の扉に【
「騒がしき風の精霊、狂い来たりて鳴り響け!【
早朝の町に地を揺るがす轟音が鳴り響き、
「止まれ!何者か!」
「我が内なる生命の精霊よ、来たりて彼の者に耐え難き苦痛をもたらせ!【
門番の
「ユイ君、助かったよ。まずはお礼を言わせてもらう」
「お礼を言うくらいなら、あんな事しなければ良かったんです」
「そうだね。でもあの時は……」
「二人で逃げる方法もあったはずです。足手まとい扱いされたことに、私は怒っています」
「……そうか、すまない」
『あんな事』。もちろんこれはフェリオさんが私を足手まとい扱いしたことを言っているのだが、別な意味もある。
あの時私は、覚悟を決めてこの人を受け入れようとしたのだ。私にだって色々な人に対して様々な感情があるというのに、それを何だと思っているのか。
そのような私の感情とは関係なく、やがて
私の馬術は武官研修で学んだ程度で、帝国騎士とは比べるべくもない。
だが、それにしても早すぎはしないか。先頭の小柄な騎士は特に馬術に
私の記憶に照らし合わせれば、もう少し先までこのまま逃げなければならない。次の策を考えればもう
「天に
頭上に出現した三本の光が宙を
「うそ!そんな……」
致命傷を負わせるつもりで放った【
その騎士は瞬く間に私の横に並んだ。黒髪黒目に黒い軍服、
「カチュア!」
「久しぶりだね、ユイちゃん。私に会いに来たのかな」
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