ハバキア帝国潜入調査(六)
いくつかの魔術と密偵としての能力とを使い分けて帝都ミューズを抜け、街道を
「ユイ君、外で食事にしようか。準備ができたら来てくれ」
「え?あ、はい」
フェリオさんにそう誘われたのは夕刻、宿屋にそれぞれ部屋を確保した後のことだった。
そういえばフェリオさんと二人で食事など初めてだ。公職試験合格のお祝いの時はミオさんが一緒だったし、今回の任務も単独行動かミハエルさんと三人だった。
胸が高鳴らないかと言われると、やっぱり嘘になる。できれば少々着飾りたいところだけれど、残念ながらそのような服は持ち合わせていない。いつもより丁寧に髪を
それはまあ仕方ない。動きやすい服装で帯剣のこと、と事前に言われてもいる。敵地ゆえ当然なのだが、敢えてそれを言ったことが気になるといえば気になる。ともかく私は気持ちを落ち着け、軽く扉を叩いた。
「ユイです。お待たせしました」
「うん。それじゃ行こうか」
プラワの町はルートと同じく
出来ることなら両親や弟妹にお土産の一つも選びたいところだが、
フェリオさんに連れられて入ったのは、高台にある料理店。この町で作られたであろうグラスを軽く合わせて、薄桃色の葡萄酒に
「ユイ君は帝国に友達がいるんだったね」
「はい、カチュアっていう子です」
「確かユーロ侯爵家の令嬢だったかな?心配だね」
「ええ。でもあの子なら、誰が相手でも負けたりしません」
「ははは、それは頼もしい。また会えるといいね」
私は少々、いや、かなり緊張していた。
しかも相手はフェリオさんだ。殴られ、蹴られ、
この人はこんな場所で、一体何を言い出すつもりだろうか。そればかりが気になってしまい、料理の味もよくわからない。子供の頃はその日の食事に困るほどだった私が、なんと
「この上は展望台になっているんだ。行ってみないかい?」
「はい。是非」
食事を終えた私達は
「ユイ君」
不意に両肩を掴まれて驚いた。フェリオさんは、この人は、一体何をするつもりだろうか。混乱した頭で目をぐるぐるさせつつ私が導き出した答えは、目を閉じることだった。
しかし数瞬待っても、予想した感触は来ない。
「さよならだ。後を頼むよ」
軽く両肩を押された私は、腰ほどの高さの鉄柵を越えて後ろ向きに宙に舞った。
「え……?」
奇妙な浮揚感。時間がゆっくりと流れていく。
なぜ?フェリオさんが帝国側について、私を消そうとした?
それは無い。そんな機会はいくらでもあったし、彼は私が【
答えはすぐに出た。【
おそらく町に入った時点で追手に囲まれていたのだ。フェリオさんはそれを察知し、二人での逃亡は無理と判断したのだろう。
不覚にも私はそれに全く気付かなかった。未熟さもあろうが、二人きりの食事にすっかり舞い上がっていたから。
上に残されたフェリオさんの安否は気掛かりだが、こうなっては落ち込む暇も後悔する余裕もない。
「内なる生命の精霊、我に疾風のごとき加護を。来たりて
追いすがる影を振り払って、私は色とりどりの光の中を駆け出した。
宝石箱のような光の一つ一つまでもが
いや違う、
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