第五章 屍山血河の道
ハバキア帝国潜入調査(一)
もう私の故郷と言っても良いだろう、山の
どうしても半年に一度くらいになってしまうが、任務の帰りや長期休暇の際には必ず帰省するようにしている。
私が今の両親と出会うきっかけになった
家に帰ってきたからといって特にやることも無いのだけれど、里帰りとはそういうものかもしれない。
私の顔を見ただけで両親も弟も妹も喜んでくれる。帰ってくる理由などそれだけで良いのではないか、と今では思っている。親も家も
最初に会った頃は遊びに夢中で、目を離すとすぐ泥だらけになっていたクリアちゃんは八歳。
滅多に出ることのない村の外に興味
「ラミカちゃんとはそれから会ってないの?」
「そうなんだよね。そのうち会いに行こうとは思ってるけど」
「今頃何してるのかなあ」
「うーん……何もしてないんじゃないかな」
エロガk……シエロ君は十一歳。
やっぱり異性のことに興味
「ロットにいちゃんは一緒じゃないの?」
「ずっと北の砦にいるよ。すっごく
「ユイねえちゃんより強い?」
「うん。もう私じゃかなわないかな」
「でもバカでエッチなんだよね?」
「そういうこと言わないの」
ロット君はカミーユ君と同じく北部方面軍に所属し、北方の山岳地帯と西方の『大樹海』に棲む妖魔や魔獣の警戒に当たっている。このカラヤ村とは地理的に離れていることもあり、なかなか帰省はできないようだ。
私も『大討伐』の際にカミーユ君と、その帰りに少しだけロット君と会ったけれど、それももう一年前の話。
『私は
『僕は
『俺は
そう誓い合ったのは十五歳の春。
あれから五年、二十歳になった私達はそれぞれの道を一歩ずつ歩んでいる。
「帝国にお友達がいたわよね。カチュアちゃんだっけ?」
母がそう聞いてきたのは夕食を終えて、父と一緒に
「はい、カチュアです。どうかしましたか?」
「皇帝が代わったらしいじゃない?ほら、お名前は何と言ったかしら」
「ゲルハルト陛下だ。何やら政変があったそうだが、その友達は大丈夫なのか?」
「……わかりません」
帝国に属する侯爵家の息女であるカチュアとは頻繁に手紙のやり取りをしていたのだが、もう百日以上も
それだけならば珍しい事ではない。私はエルトリア国内を転々としているし、帝国の高級武官となったカチュアもすぐに連絡が取れる場所にいるとは限らない。長期任務を終えて王都に帰ると手紙が何通も届いていたこともある。
なにしろ、お互い国の機密に触れることが多い身だ。場合によっては任務中に手紙を書くことができなかったり、検閲を受ける場合もある。彼女に何かあったとすればユーロ侯爵家から何かしらの連絡があるだろう、その点については心配していない。
だが。確かに今、カチュアの身辺は穏やかではないはずだ。
この田舎村にまでそのような噂が流れているのだ、当然ながら国の情報機関に属する私はもっと詳細な情報を得ることができる。
私は両親の顔を等分に見て、
「次の任務は少し長くなりそうです。しばらくは連絡も取れませんが、どうかご心配なく」
ご心配なくという言葉を受けて、逆に心配そうな顔を向けてくる両親。申し訳ないけれど、
次の任地はハバキア帝国、任務は帝国内の情勢調査。私の初めての国外任務は、カチュアの祖国への潜入だった。
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