人の姿をした獣(五)
広大な森をその領域とする亜人種自治区。
旧友の声が
「……ユイちゃんだよね。その髪は何?その子はどうしたの?」
「これは……」
後ろ暗いところはない。髪型も髪色も服装も変えているのは潜入調査のためだし、足元に横たわる
それを伝えようと口を開いたのだが、プラたん、旧友の魔術師プラタレーナは、彼女らしくもなくそれを
「……その子、あの時の子」
言われてようやく気が付いた。以前この森で
「……学校で、言葉、覚えたのに。少しだけ計算もできるようなったのに」
そうだ。私があの村を発つ日、この子は学校にいた。まだ怪我が
「……なんで?どうしてこんな事するの?
「違うよ!プラたんも知ってるよね、私もラミカもこんな事しない!」
「……じゃあ、答えて。どうしてこんな所にいるの?何をしていたの?」
「それは潜入調査で……」
だが。私の言い訳を許さないかのように複数の気配が近づいてきた。
今、砦の兵士達に見つかるわけにはいかない。髪色などを変えていても、アルバールに近くで見られれば私だと知られてしまうかもしれない。そうなれば彼らの悪行を
「私を信じて!
私が砦に戻ったのは夜が明ける直前。
【
「アイシャ!あんた、戻ってきちまったのかい!」
「え!?あっ、その……」
その声に、寝ていた雑用係の方々が次々と目を覚ます。まだ夜も明けきらぬ時刻だというのに。
「あーあ、何だって戻ってきちゃうかね。せっかくみんな気付かないふりしてたのに」
「まったくさ。あんたみたいな良い子ちゃん、他にできる事あるでしょうに」
「でも良かったよ、無事でさ。とにかく生きていればいい事もあるよ」
寄ってたかって頭を
「アイシャなの?また会えて嬉しいよ。でもね、アイシャが遠くで幸せになってくれた方が、私は嬉しいな」
口では様々なことを言いつつも目の端に涙を浮かべる皆に囲まれて、私は色々な意味で反省した。
誰にも気づかれずに抜け出したと思っていたのに。個人の感情を排して任務を遂行すべきなのに。これでは密偵失格だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます