茜色の剣士(五)
アルバール君の長剣が空を裂いて迫る。十分に練られた華麗な技、だが私の
「こんなもの!」
「ちいっ!馬鹿にしやがって!」
別に私は相手を馬鹿にしてはいない、それをしたのはアルバール君の方だ。
彼が得意としているであろう
『何となくだけど、迷いのない意志を感じたから。実戦では少しくらいの技術よりも、いざという時に
カチュアの演武を真似るうち、いつの間にか身についていた流水の
今こそ必殺の意思を込め、
「カチュア!私は
意識の空白、数瞬の静寂。そこから我に返ると、アルバール君が目の前でへたり込み剣を取り落としていた。恐怖のためか
私は剣を垂直に掲げ、一礼して背を向けた。これがカチュアであれば今の刺突も受け流されていたことだろう、未だ私は親友の足元にも及ばない、と少し落胆する。
「なんと!?騎士にはならぬと申すか!?」
「申し訳ありません、私にはやるべき事がありますので」
「
「いえ。有難いとは存じますが……」
決勝戦が終わった後、この大会の主催者であるカーマイン男爵に仕官を勧められたものだが、丁重にお断りした。
エルトリア王国の騎士階級である私にとって、元々受けることのできない誘いではある。
だがもし在野の身であっても、この話を受けることはなかっただろう。招かれた男爵の邸宅には
私は嫌悪感を押し隠して男爵邸を後にした。このような人物がいるから亜人種を狩る密猟者がいなくならないのだ。最後まで
この町を訪れた日と同じような、薄い雲が流れる朝。町外れで旅支度のエアリーが私を待っていた。
「王都に戻るんでしょ?見送らせてよ」
「確かに王都には戻るけど、目的はそれだけじゃないでしょう?」
「へへ、やっぱわかる?」
背負い袋を置いて剣を抜くエアリー、私もそれに応えて荷物を下ろした。
「ユイちゃん、また上に行っちゃったね。あたしもかなり強くなったつもりだったんだけどなあ」
「うん、それでもまだカチュアには全然届かないんだ」
「この前言ってた帝国の子?ふうん、嫉妬しちゃうなあ」
「嫉妬?どうして?」
「あたしもユイちゃんに
「ふふ、じゃあそう思わせてみてよ」
「言ったなあ?今のあたし、見せてあげるよ!」
茜色の髪の剣士は心底楽しそうに笑い、大剣の刃に秋晴れの空を映した。
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