大樹海の大討伐(六)
「
精強をもって鳴る北部方面軍が唱和し、地を踏み鳴らして突進する。それに対して妖魔からの破壊魔術が遅れたのは、参謀カミーユ君がその身を
「まず僕が先頭に立って破壊魔術を引き受ける。そうでなければ、こんな頼りない参謀の指示なんか誰も聞かないだろう。最初に僕が体を張る必要があるんだ」
彼はそう言って、言葉通りに体を張って見せた。この分隊に所属している魔術師の【
次に破壊魔術が集中したのは、突撃の先陣を切る私だった。
最精鋭とされる北部方面軍においても魔術師の存在は希少で、この分隊には一人しか所属していない。その一人が【
「限界です、お願いします!」
「おう!」
「任せておけ」
【
「我が内なる生命の精霊、来たりて不可視の盾となれ!【
再び私が【
「どうしても損害が避けられないのなら、それは正規軍であるべきだ。僕らはそのために税金で養われ、良い装備を与えられているんだからね」
カミーユ君の言葉を聞いて、また私は恥ずかしくなったものだ。騎士階級となった自分はいつしか増長してしまったのかもしれない。ラミカが私の元を去ってしまったのも、リゼルちゃんとリースに不幸を招いてしまったのも、きっとそのせいだ。
そのような私に、再び人のために戦う機会が与えられた。この作戦は私達が耐えれば耐えるほど味方の、ブリジット達の損害が減るはずだ。何度も【
「しまった、沼地だ!」
「くそっ、動けん!」
昨夜の雨で地面がぬかるみ、ところどころ水が溜まって沼のようになっている。軽装の私はともかく、体が大きい上に重装備のトマスさんとミシェルさんは膝まで泥にはまって身動きが取れなくなってしまった。
そこに数ばかり多い
「
「できません、そんな事!」
「こんな時のために鍛えてあるのさ。俺達の筋肉を馬鹿にしないでもらいたいね」
「私だってこんな時のために魔術を学んだんです!」
「頑固なお嬢ちゃんだなあ」
強がってはいるが二人とも、いや三人とも顔じゅう体じゅう泥と血にまみれている。前からの投石、上空からの【
「空を駆けし自由なる風の精霊、その意のままに舞い狂え!【
にわかに起こった風が夏草をちぎり飛ばし、まだ散るはずのない青々とした木々の葉をもぎ取って巻き上がる。それは上空から好き放題に破壊魔術を浴びせる
このような難度の高い広範囲魔術に必要な魔力、精霊操作、集中力、それらを全て備えているのは魔術師の中でも中級以上の実力を持つ者に限られる。例えば軍学校を卒業した私達のような。
「ブリジット!来てくれたの!?」
「当たり前でしょ!馬鹿にしないでよ!」
軍学校の同期生はこちらを見てはくれなかったが、それは私に背中を預けたからだ。集中、詠唱、二人の魔術師から三本ずつ放たれた【
「正規軍にばかりいい格好させられるかよ!」
「
武力、装備、士気、戦術、連携、およそ集団戦闘に必要な全ての要素で上回る
数日の後。ナギ市の冒険者ギルドは外まで行列が続くほどの混雑ぶりで、とても中に入れる様子ではなかった。
『大討伐』が無事に終了して報酬を受け取ったのだろう、ギルドの建物から出てくる人達はみな笑い、肩を組み、早くも酔っ払ったような顔で街に消えていく。
「ブリジット、改めて謝らせて。私いつの間にか自分が偉いと思っていたかもしれない」
「……そんな風に言われて許さなかったら、私が悪いみたいでしょ」
口を尖らせつつも差し出した手を握ってくれたブリジット。彼女の後ろにいるのは体格の良い剣士、
冒険者に身を落とす、という言葉がある。冒険者など食い詰めた者が仕方なく選ぶ職業であり、いつどこで野垂れ死ぬかもわからない仕事だ。騎士や魔術師など地位ある者が諸事情あってその職に就いたとき、そう陰口を叩かれるという。
人の痛みを知っていたはずの私は、いつしか彼らのことを見下していたのだろう。自分は努力の甲斐あって地位と力を得たのだ、彼らを守り導く立場になったのだと。
『力を持つ者は、それを使うときはよく考えなければならない。魔術でも、武術でも、権力でも。君なら正しく力を使えると思う』
フェリオさんにそう言われたというのに。私は力を得たことで増長し、傲慢になっていた。
「良かったね、ユイさん」
「……うん」
訳知り顔のカミーユ君に苦笑いで頷く。彼のことだ、きっと何もかも気付いているに違いない。
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