大樹海の大討伐(一)
「どうだ、久しぶりにゆっくりできたか?」
「はい!あ、いえ。申し訳ありませんでした」
三十日ぶりに王宮に顔を出した私は、エルトリア国王ベルナート陛下と直属の上司であるパラガ男爵、二人に向かって深く頭を下げた。
三十日間の停職は『王宮魔術師候補フレッソ・カーシュナーに関する一連の騒動の責を負う』という名目だったが、むしろ働き詰めの私を休ませるという側面が大きかったようだ。
時間ができたのを幸いにカラヤ村の実家に戻り、しばらく穏やかな時間を過ごした私は少し太ってしまったかもしれない。気持ちを入れ替えて職務に
停職期間中の情勢の変化について、パラガ男爵から大まかな説明を受けた。この人の肩書は『情報部門総監』というもので、
その他にも人知れず活動する諜報員を抱えているのではないか、とも噂されているが、私達
ともかく。改めてフレッソの身辺を調査したところ彼に不利な証言が続出したこと、元
なにしろ彼の権勢を
彼の処分はまだ正式には決まっていないが、もしこの状況下で王都に戻れば身柄を拘束されることになるだろう。本人もそれを予想しての逃亡だったのかもしれない。
そのフレッソ・カーシュナー及び『女神の涙』を奪い姿を消した
「そうですか……」
陛下と男爵が同時に私の顔を覗き込んだようだ。
敬愛する先輩
「それで、だ。ユイ・レックハルト、次の任務を申し付ける」
「はい」
ベルナート陛下は謹厳な口調で、だが両手はもうすぐ二歳になる息子をあやしながら、私に次の任地を告げた。
「ナギ市にて北部方面軍に合流し、『大討伐』に参加せよ」
「『大討伐』に?」
『大討伐』とは年に一回、エルトリア王国最精鋭とされる北部方面軍が行う大規模な妖魔討伐作戦のこと。
エルトリア王国の西側には蛮族や妖魔が巣食う昼なお暗い魔の森が広がっており、俗に『大樹海』と呼ばれている。この『大樹海』に近い町村は常に妖魔に
『大討伐』には北部方面軍に加えて民間団体、つまり近隣の冒険者ギルドからも参加者を募集する。移動や食事、負傷した場合の治療費などを全て国費で負担し、基本報酬に加えて妖魔や魔獣の種別・討伐数に応じた追加報酬が支払われるため希望者が非常に多く、その人数は例年数百名に及ぶという。
「不確かな情報だが、『大樹海』で妖魔を
「!……はい、お任せください」
その魔術師とやらが逃亡中のフレッソである可能性は高くないと思うが、魔術の悪用は魔術師の信用を落とすいう理由から厳しい処罰が下される。
これが事実であれば
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます