王国魔術師フレッソ・カーシュナー(三)
王宮の中庭にはまだ雪が残っているが、差し込む陽射しは早くも春を思わせる。
王都フルートの春の訪れは遅いものの、一度温かくなってしまえば色とりどりの花々が咲き誇り、人々の服装まで華やかになる。
だが廊下の奥から現れた一団は、そのような穏やかさとは無縁の
「やあ、
「……」
私は目を伏せ、彼らが通り過ぎるのを待った。
この男はリゼルちゃんを
王国魔術師はエルトリア王国にたった三人、当代に限れば爵位に等しい権勢を有することになる。
自分が見下されるのはともかく、この世界の人々すべてを見下している者が巨大な力を得てしまったことが腹立たしい。私ではもう手の出しようがない相手になってしまったことが悔しい。
薄手の
黒色で統一された趣味の良い喫茶店だ。温かい
「お待たせしました」
「いえ、時間通りよ。私が本を読みたかっただけ」
ミオ・フェブラリー。
「もう聞いたわよね?新しい王国魔術師のこと」
「はい。『あの男』です」
王国魔術師の一人が高齢を理由に引退すると聞いたとき、私は友人のラミカを推薦しようとしたのだが、本人にその気がなく断念せざるを得なかった。
しかしまさかあの男が選ばれるとは。魔術師としての実力はラミカに遠く及ばず、たいした実績も上げていないというのに。
「短期間でメルケ村を発展させた手腕、行政官としてクルスト男爵領を治めた実績、広い人脈、それらが評価されたそうよ」
「手腕、実績、ですか?犯罪歴ではなく」
「ふふ、手厳しいのね。無理もないわ」
彼がメルケ村で行っていたのは自己神格化と自分を頂点とする階級制度の構築だし、クルスト男爵領では禁忌とされる
「許せない?あんな男が王国魔術師なんて」
「……ええ」
「そうよね、私もそう思うわ。彼は危険よ、もしかするとこれでは飽き足りず、王位まで狙うかもしれない」
「そんな大それた
「本当にそうかしら?『女神の涙』の加護があっても?」
「……」
私はこの時、不自然さを感じてはいた。ミオさんはこのような物言いをする人だっただろうか。
「ねえ、ユイ。例の件は考えておいてくれた?」
「……はい」
「じゃあ決まりね。準備を進めてちょうだい」
例の件。王国魔術師フレッソ・カーシュナーを罠に
だがこの段階になって私が
「……わかりました」
だが最後には、急速に成り上がるフレッソへの危機感とミオさんへの信頼が勝った。すっかり冷めた
ずっと後になって私は思った。このような作戦を実行しようがしまいが、いずれにしても良い結果にはならなかったのではないだろうか。
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