行政官フレッソ・カーシュナー(九)
全身を【
だが私は諦めたわけではなかった。何があっても最後まで生き抜くと決めているし、友人を信じてもいたから。
「内なる生命の精霊よ、我が魔素と共に宿りて魂の輝きとなれ!【
か細い声で詠唱したのは私ではない。この場にいるもう一人の魔術師であり、私の大切な友人、リース。
【
親友から学んだのは剣術だけではない、夏合宿では格闘術も身に着けた。迷いなく
「ワードラーの
「でも、でも……私、ユイちゃんだけは裏切れない!」
「信じてたよ、リース。あとは任せて!」
魔術の大家に生まれながら魔術の才に恵まれなかったリース。気が弱く両親の言いなりになっていたのは、おそらくその
このクルスト男爵家に仕えることになったのは、生家であるワードラー家の
「無能が!
フレッソの頭上に闇色の球体が三つ浮かぶ。【
彼は怒っているのではなく焦っているのだ。魔術の威力は術者の精神状態に大きく左右される、これならば魔力に劣り
「我が内なる生命の精霊、来たりて不可視の盾となれ!【
虹色の障壁に闇が弾けた。それは共に砕け散り、無数の破片をまき散らす。その中を突っ切って懐に潜り込み、
低く
「嘘……また!?」
先程も同じような偶然に阻まれたばかりだ、今だって
そして、運命はさらに
「やめなさい!あんた達、ここをどこだと思ってんのよ!」
駆けつけたのはリゼルちゃん、これほどの騒ぎに彼女が気付かない訳はない。だがもう少し、十数秒の時間があればフレッソを仕留めることができたというのに。
そのフレッソはリゼルちゃんの前に
「すまない、リゼル。でもどうか信じてほしい、君とクルスト男爵家を救えるのは僕だけだと」
「リゼル様、
「……リース。今日限りで
リゼルちゃんの肩を抱いて去るフレッソ、その口元が嫌らしく
リゼルちゃんには私の言葉が届かなかったのだろうか。いや、あの子はきっとフレッソに利用されていることに気付いている。
だがその聡明さゆえ、男爵家を再興するには彼に頼るしかないことを承知してもいる。さらには家宝でもあり、所有者に並外れた幸運を与えるという『女神の涙』を渡してしまっては、もはや後戻りもできないのだろう。
この一連の経緯は私から王都に報告したものの、公式な記録としては残されなかった。
男爵家を追われた魔術師リースは私の推薦で王宮付き魔術師の職に就いた。彼女はやはりフレッソと共謀していたわけではなく、突然現れた彼に驚いて動転していただけのようだ。泣いて謝るばかりのリースを
だが私達は良いとして、リゼルちゃんは完全にフレッソの手中に落ちてしまった。
◆
(5/13追記)この章の前半部分を修正しています。
身に余るほどのフォロー、ハートなど有難うございます。さらにレビュー、ギフトまで頂いてしまい恐縮です。ご期待に沿えるよう努力しますので、どうか最後までお付き合いください。
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