魔人族の小さな幸せ(五)
ほどなくして、小さな宿屋は数十人の村人に囲まれてしまった。
「出て来い、
「お前が妖魔を操ってるんだろ!」
声だけではない。投げられた
「大丈夫です。心配ありませんよ」
フェルケさんとエレナさん、それから二人が
私と知ってか、それともエレナさんと誤認したのか、顔に向かって投げつけられた石を体をひねって
「あなた達……こんな真似をして恥ずかしくないのですか」
「
「全部エレナのせいだ!あいつが妖魔を呼び寄せたんだ!」
「エレナが
違う。何度も繰り返したように
だがこうなってしまえば何を言っても無駄だろう、みな熱に浮かされたように自分が正しいと思い込んでいる。厄介なものだ、と心の中で
「見えざる風の精霊、我は
投げつけられた数個の石が風に巻かれてあらぬ方向に飛び去り、そのうちの一つが別の村人に当たったようだ。顔を押さえてうずくまるその人は不運と言って良いのだろうが、とても同情する気にはなれない。
投石が無駄だと悟ったか、
だがこの馬鹿馬鹿しい沈黙は、半鐘を打ち鳴らすけたたましい音に切り裂かれた。
ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン、五回続けた後に間を置いてまた五回。私は思わず身を
「
次々と森から湧き出る妖魔の群れ。二十、三十、いや、にわかには数えられない。
それを迎え撃つべき自警団の多くはここにいる、しかも武器を手に持って。だが彼らは
あまりにも情けない。集団で一人の女性を取り囲むことはできても、襲い来る妖魔の前に立ちはだかることはできないとでも言うのだろうか。
「どいてください!」
この
「貪欲なる火の精霊、我が魔素を喰らいその欲望を解き放て!【
彼らの目前で炸裂する火球、数瞬遅れて吹き付ける熱風。私らしくもない破壊魔術で先頭の数匹を一掃したものの、濁流のように湧き出る妖魔の勢いは止められそうにない。
周囲を囲まれぬよう一太刀ごとに位置を変え、向きを変え、剣を振り回し牽制してまた駆け出し、駆け抜けざま一匹を切り捨てる。呼吸が苦しい、返り血が頬を濡らす、
カチュアなら?剣を
討ち漏らした
「何びびってんだよ、クソ共が!あの人が誰のために戦ってると思ってんだよ!」
いや、いくつか妖魔を迎え撃とうと駆けだした影がある。粗暴に見えて真面目で素直なラムザ君とその友人、日を追うごとにその数は増えて五人になっていた。
「女一人に戦わせてよ、棒切れみたいに突っ立ちやがって。その手に持ってんのは何なんだよ!」
三人がかりで
良かった、彼ら自身が立ち向かってくれるなら被害は少なくて済むだろう。だがこちらは……
疲労のあまり動きが乱れる、腕が重い、血と汗と脂で剣を握る手が滑る。いったい何匹の妖魔を斬ったのか、あと何匹斬れば村は助かるのか。全身を染めるのが返り血なのか自分の血なのかわからない。
目の前の
そこに飛び込んできた小さな影。エレナさんが細い腕で鉄製の
「私も……戦えます」
村人から
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