アカイア冒険者ギルド再調査(四)
ようやく
赤く照らし出された岩場と森の境目に、木を
小屋の数は八つ、一つの小屋に
「いいか?四方に分かれて、俺の合図と同時に突っ込め。一匹も逃がすな」
「少し敵の数が多くはありませんか?一方向から奇襲して、逃げる者を追撃した方が……」
「ガキは黙ってろ、びびってんじゃねえ」
「……」
見た目通り粗暴なガザさんは私の意見に耳を傾けず、他の仲間と示し合わせて
「ユイちゃん、実戦は初めて?がんばろうね!」
「あ、うん。エアリーは経験あるの?」
「一応ね。最初は散々だったけど、そういうものだって師匠が言ってた。ユイちゃんも無理しないでね」
「わかった。ありがとう」
私が緊張していると思ったのか、意見を無視されて落ち込んでいると思ったか。不快なことが多い今回の任務の中で、気づけばこの子が息抜きの役割を果たしてくれていた。アカイア冒険者ギルドの現状調査という仕事はまだ終わっていないけれど、もしかすると彼女に出会えたことが一番の収穫になるかもしれない。
「あっ、合図だよ。私達も行こう!」
道中は不用心だったし準備も悪いし作戦も粗雑なものだったが、襲撃そのものは手慣れているようだった。ガザさんの合図で四方から集落を強襲、次々に
邪悪な妖魔とはいえ同じ命、無闇に奪うべきではないという意見は当然この世界にもある。だがそういった声を上げているのは例外なく、妖魔の被害に遭ったことがない人達だ。家畜を喰われ、家を荒らされ、家族を殺された者であれば
私が今さらこんなことを考えているのは、一方的な
「ひゃはははは!殺せ殺せぇ!」
「逃げんなおら!死ね豚野郎!」
「がはははは!俺ら
妖魔は人に害を為す邪悪な存在であり、私達は被害を未然に防ぐために派遣された。だが仲間であるはずの彼らの行いはどうだろう、これではただ弱者を相手に欲望を解放しているだけではないか……
「どうしたの、大丈夫?」
エアリーも
だが状況が一変するまでにさほどの時間はかからなかった。ひときわ大きな小屋から、のそりと大きな影が姿を現したから。成人男性をはるかに上回る体躯、膨れ上がった全身の筋肉、体毛は濃く肌はどす黒く、明らかに他とは異なる個体。
「
「うおお、でけえ!」
「こいつは駄目だ、逃げろ!」
「ユイちゃん、私達も逃げよう!」
エアリーの提案は正しい。三人組が逃げてしまった以上、
だが多くの場合、生き残った妖魔は
「エアリーは先に行ってて。あとは私がやるから」
「そんな訳にいかないでしょ!」
私と背中合わせに立って長剣を構えるエアリー。その背中越しに伝わってくるのは
「出会ったばかりの友達を見捨てて、何が剣士さ!」
「ふふ、じゃあ後ろは任せるよ。草木の友たる大地の精霊、その命の欠片、集いて
ざっ、と風が巻いた。地面で乾いた落葉が、辛うじて木々に残った枯葉が、ことごとく舞い上がり宙で渦を成す。天に掲げた左手を横に薙ぐと、茶色く乾いた葉の壁が
やがてそれが鎮まったとき、落葉とともに地に落ちていたのは大小四つの
「天に
その光景を理解するよりも早く三条の光の矢が
「ユイちゃん、あなた魔術師だったの!?」
「……うん。黙っててごめん」
まだ呆然としているエアリーに謝ったものだが、私はこの子にもう一つ隠し事をしている。
体を張って守ろうとした上に友達と言ってくれた彼女に対して、それはあまりにも不誠実な行いではないだろうか。
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