アカイア冒険者ギルド再調査(三)

 マリボーの村に着いたのはすっかり日が沈み、家々に灯りがともってからだった。


 道中の手合わせでかいた汗が冷えてしまったエアリーなど、「寒い寒い」と大きな体を震わせながらようやく到着したものだ。魔術を使えば簡単に暖を取る方法はあるのだが、今回の旅では生憎あいにくと簡単に魔術を見せるわけにはいかない。




 何軒かある宿のうち最も安そうな店で部屋を確保する。敢えて何も言わず様子を見ていたものだが、男女別に二部屋を手配してくれたので安心した。男性三人組に対する冒険者ギルドからの評判は悪かったけれど、ここは素直に感謝したい。


 だが一階の酒場で夕食を摂る段になると、やはり下心丸出しだった。しきりにお酒を勧めてくるし、隣に座ってやたらと体を触ったりもする。


「すみません、お酒は飲めないもので。ガザさんも飲み過ぎると明日にさわりますよ」


「ああ?生意気だぞてめえ。いいから飲めってんだこら」


 だが人相の通り粗暴なガザさんも、横目でにらむとおとなしく引き下がった。これは図らずも昼間に剣術の腕を披露してしまったことが良い方に出たのかもしれない。


「じゃあユイちゃんの代わりにあたしが飲みます!」


「おお!飲んだれ飲んだれ!」


 つまらない女と認定された私の代わりにエアリーが相手を務めてくれたのだが、立派な体格とはいえまだ十七歳の女の子だ。麦酒エールを三杯と飲まないうちに呂律ろれつが回らなくなってきた。まだしつこくお酒を飲ませようとする男どもを無視して肩を貸し、二階の部屋に連れて行く。


「ユイちゃん、らいじょうぶ~?」


「うん、身代わりになってくれてありがとね。今はエアリーの方が心配かな」


「気を付けなきゃらめだよ~?男はみんら狼にゃんらから~」


「そうだね。お互い気を付けなきゃね」


 どうやらこれも私を心配しての行動だったようだ。彼女なりに仲間内の間を取り持とうとしてくれたのだろう、自分を道化にして気を遣うところなどラミカに似ていなくもない。


 そしてラミカと同じように、いや、大柄で筋肉質のエアリーはそれ以上に重い。私の倍はあろうかという体を担ぎ上げて寝台に乗せた頃には、昼間の手合わせどころではない負荷のために汗だくになってしまった。




 やはりと言うべきか、お酒を飲みすぎた三人組とエアリーはなかなか寝台から起き上がれず、依頼者への挨拶と詳細の確認は私一人で行うことになった。村の代表だという初老の男性はつまんで事情を説明した後、私を心配そうに眺めたものだ。

 それはそうだろう、老人よりもさらに小柄で痩せた女の子が邪悪な妖魔の集落を強襲するというのだから。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?無理するんじゃないよ」


「ありがとうございます。腕利きの方もおりますので、どうかご心配なさらず」




 ようやく出立の準備が整ったのは正午近く。村に隣接する森の奥に豚鬼オークの集落があるという依頼者の話を基に簡単な地図を描いて全員に説明したのだが、どうも反応が鈍いのはお酒が残っているためか、それともよく理解できなかったのか。


「ああ、ああ、わかったわかった。とにかくそっちに向かって豚鬼オークぶっ殺しゃ終わりだろ」


「ですが正確な数がわかりません。上位種の存在も否定できませんので、手筈てはずを確認した方が……」


「そうかいそうかい。じゃあ行こうぜ」




 欠伸あくびをしつつ無造作に剣を担ぎ、ろくに周囲を警戒もせず森に踏み込んでいく三人組。このように粗雑で不用心な冒険者達がギルドの評判を落としているのだが、本人達は気付いていないのだろうか。


 将来有望なエアリーに悪い影響が無ければ良いのだけれど、と隣を見上げると、しきりに頭を押さえながら水を飲んでいた。これははなはだよろしくない。

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