死霊達の主(八)
フィンの町に戻った頃にはとっくに日が暮れ、いつまでも晴れない雲が相変わらず星々を覆い隠していた。
朝が早い人ならばもう
ラミカなどは疲れた、お腹へった、絶対やだと言って寝転がったものだが、私はひたすら非礼を詫びて平身低頭する使者の方が気の毒になってしまい、結局ラミカを説得して館に向かうことにした。
「おお、おお、よくぞ無事でお帰りくださいました。私は信じておりましたぞ、
ダルトン領主代行は揉み手せんばかりの態度で玄関まで出迎えに来たものだが、それで私達の好感度が上がることは一切なかった。この人は最初に会った時から口ばかり盛大に動かしているが、町のため人のためには指一本たりとも動かしていない。
「それにしても美貌に加えて魔術剣術の才、恐れ入るばかりでございます。
私はとうとう片手を上げて濁流のごとき言葉を
さらに私の推測が正しければ、この男の罪はそれだけではない。今すぐこの分厚い
「草を木を、心を揺らす風の精霊、真実と虚構の
【
ただし問いは一つだけ、回答は『
しかもこの魔術による判定は術者にしか示されないため、証拠としては扱われない。言ってしまえば個人的な推測の真偽を確かめるために魔術を使ってしまったわけで、この時私は
「いいですか、ダルトンさん。私の質問に『
「おお、これがうわさに聞く魔術ですかな。何なりとお聞きください、隠しだてなど致しません。それにしても魔術というものは……」
「あなたは古城に財宝があると偽り、冒険者達を差し向けました。それは死霊の報復を招き、当時領主であったルッツ夫妻を
「いやいやいやいや、何をおっしゃいますか。到底身に覚えの無いことでございます、そもそも……」
「『
「いや、その、なんです、私としてはですな……」
もういい、無意味な言葉の
「『
やはり。私の頭の中では、ダルトンさんの言葉が『嘘』であることが明確に判定できた。つまり死霊を呼び寄せたのも、ファルナさんが命を落としたのも、ルッツさんが汚名を着せられたのも、全てこの男の仕業だ。何のためか?ルッツさんを追い落として自らが領主となる、ただそれだけのためだ。
「ダルトンさん、あなたは……」
あまりの卑劣さに言葉が出てこない。剣を抜く衝動に耐える右手、そこに柔らかい感触が重なった。
この温かさと湿っぽさには覚えがある。この子はいつでも、どんな時でも周りがよく見えている。
「ま、あとは後日ってことでー。私お
「そ、それならば奥に酒宴の用意が……」
この
「やっぱいいわー。行こ、ユイちゃん」
今日も星の無い、どこに月があるかもわからない雲に覆われた夜。私は何もない空を見上げて大きく息を吐き出した。
「ありがと、ラミカ。助かったよ」
「いいってことよー。お
「そうだね、私も。今日は何でも食べていいよ」
「やったー!じゃあね、まずチョコパとレモンのシャーベットと……」
王都に戻った私達は国王陛下に復命、あとは後日の話になる。
以前私の教育係を務めていた
「最後はとうとう我慢できなくなったようだね。できれば最後まで知らぬ顔をして、相手の手が届かないところから刺してしまった方が安全ではなかったかな」
確かに
バロンさんは言葉だけの人ではなく、以前私が問い詰めた際に表向き配慮を見せていたアカイア冒険者ギルド長に対しても、裏で早期の
当時私はこの人のことを無気力、生ぬるいなどと思っていたものだが、ダルトン領主代行の身辺を洗う手際は早く鋭く淡々としており、
色とりどりの花に囲まれた小さなお墓。ずっと空っぽだった
亡き人との会話を終えたのだろう、しばらく座り込んでいた父子が立ち上がった。ルッツさんが両手で私の手を握ったまま顔を上げないのは言葉が出てこなかったのか、とても人に見せられる表情ではなかったのか。
不意に右の頬が温かくなった。この町に来て初めて射した陽光に目を細めると、暗く沈んでいた花々が一斉に顔を上げた。
亡くなった人が戻ることはないけれど、こうして残った人が前を向くことが何よりの
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