メブスタ男爵家調査依頼(六)
その名を知ったのは軍学校の授業だったか、図書室の資料だったか。とにかく印象的で正確な挿絵のおかげだ。黒いぼろ布から突き出た骨と皮だけの大きな両手、それのみが虚空に浮かんでいる光景は
男爵が招いた魔術師が操るのは、
だからこそ先手を譲るわけにはいかない。
【
だが、後から思えばこれが苦戦の原因だったかもしれない。証人にすべく生かして捕らえようとした、老人だからと加減した。その判断が間違っていたとは思わない。だが老魔術師の顔から流れる青い血を見て、自らの誤算に気がついた。
「
外見は人間と変わらないが、寿命、知性、身体能力、魔力、その全てにおいて数段優れる種族。かつて死闘の末に
「ユイちゃん、後ろ!」
ラミカの声に身を投げ出す。髪先に何かが触れた気がする、おそらくは
立ち上がろうとしてもう一度床に転がる。老魔術師の杖から放たれた【
「ラミカ、そっちはお願い!」
「あいよー」
「そっち」などと言い捨ててしまったが、そっちは魂を喰らう異界の魔物だ。簡単に引き受けられる相手ではないはずだが、この事態にも間延びした返事が返ってきた。
さすがは天才と言うべきか天然と言うべきか、ともかく私は相手を
再び放たれた【
淡い光の向こうで老人がにやりと笑う。たかが剣士の斬撃など【
「天に
光の矢が老魔術師の胸で弾けた。その表情が笑いから驚きに、次いで焦りに変わった。
同時に発現できる魔術は熟練の魔術師でも二つまで。
【
光の矢と
そして振り返った私が見たものは、光と闇が狂い乱れる
「なにこれ……」
かつて天才と呼ばれた魔術師は、はちきれんばかりの豊満な肉体で可愛らしいブラウスの胸ボタンを弾き飛ばしつつ、異界の魔物さえ圧倒していた。
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