メブスタ男爵家調査依頼(一)
ジュノン軍学校を卒業し、エルトリア王国の
この日私は王国最南端の地を踏むことになった。世界の隅々まで見届けるという夢を果たすための大きな通過点と言えるだろう。
パラーヤという名の港町、ここには軍学校時代の友人がいるはずだ。
はずだ、というのはこの
白く明るい石壁と赤い屋根で統一された街並みが海と空の青に映える。風が潮の香りを運んでくる。港町らしい急坂を上りきったところで目的の建物を見つけ、早くも夏を思わせる陽射しに乱れた呼吸を整えた。
「ここだ……ベラヌール家」
ラミカからの手紙には地図も書かれていたのだが、あまりにも雑すぎてとても参考にできる
ただ『貿易商のベラヌール家』と道行く人に聞けばすぐに教えてくれて、苦もなくたどり着くことができたのは幸いだった。
広い敷地を囲む石塀に鉄製の門、石と
「ユイちゃんだー!おひさしぶりー!」
「久しぶりだね!約束通り会いに来たよ」
「なんだよう。揉むなよう」
初めてラミカと会ったときもこうだった、着ぐるみが牛から豚に変わっただけだ。あの時のようにお菓子の袋は持っていないようだが、お腹についた食べかすが今の彼女の生活を物語っている。
「
「それはもう頑張ったもの。この前プラたんに会ったよ」
「へー。元気だった?」
「うん、後でゆっくりお話するよ。ご両親に挨拶していい?」
「あいよー」
「あの、お母さんですか?お姉さんではなくて?」
「あらーいい子ね。お菓子あげちゃう」
ラミカと同じ紅茶色の髪と肉感的な身体は想像通りだったが、肌艶といい縦ロールの髪型といい、どの角度からどう見ても二十代半ばにしか見えない。
「いえ、
「ほんとに行くのー?」
「ぜひ連れ出してあげて。この子ったら、放っておいたら家から一歩も出ないんだから」
「やだー!働きたくないでござる!働きたくないでござるー!」
渋るラミカを引きずって部屋に押し込み、半ば無理やり豚の着ぐるみを
「ちょっとラミカ、これどうしたの」
「やーめーてー」
やっぱり。私は下着からはみ出た大量の脂肪をつまみ上げた。
かつて天才と呼ばれた魔術師は、怠惰な実家暮らしで見事に激太りしていた。
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