儀仗兵ロットの憂鬱(九)
闇に閉ざされた王都の地下水路、【
恐るべき妖魔、それだけに奇襲で仕留められなかったのは痛い。軍学校を卒業した頃のロット君が名剣を手にしていれば胴体を真っ二つにしていたかもしれないが、彼自身の迷いと量産品の剣が蛇の鱗以上にそれを阻んでしまった。
「ロット君、エリューゼをお願い!」
返事を待たずに
だが暗く狭い足場、汚泥でぬかるむ足元、いくつもの不利が重なってまともに戦えない。それに非力な私の斬撃と半端な破壊魔術では、注意を引くことはできても致命傷を与えることができない。
襲いかかる毒の牙を見極め、
「ええい!これでどうさ!」
幼さの残る声とともに真横から一筋の光。
【
「来い!俺が相手だ……うっ!?」
背中にエリューゼを
蛇の胴体の上に乗る女性の口が大きく開き、獲物を品定めするように長い舌が出入りした。
「ロット君、しっかりして!」
焦点の合わない目でこちらに向き直り、雑に剣を振り上げるロット君。初めて剣を握った農夫のようにぎこちない動きでそれを振り下ろし、また振り上げる。
「私がわからないの?全部忘れちゃった!?」
私の声が届いているのかいないのか。しばらくは何かに戸惑っているような様子だったが、徐々にその斬撃は暴風のような勢いに変わってきた。
これくらい迷いが無ければ私になんて負けなかったのに、などという思いを巡らせる余裕すら次第に失われていく。撃ち交わす剣が火花を散らし、腕の骨が
『私は
『僕は
『俺は
あの日の誓いも虚しく互いに傷つけ合った挙句、私達は妖魔の腹に収まってしまうのだろうか。
とうとう重く鋭い剣を受け損なって大きくよろめき、革鎧の胸当てが切り裂かれた。背中には通路の石壁、前には敵に魅了されたロット君、さらにその後ろには獲物同士の殺し合いを満足そうに見下ろす
「内なる生命の精霊よ、我は勝利を渇望する。来たりて
『もし、もしさ。敵が
暗闇の中でロット君はそう言っていた。
「できるわけないでしょ、そんな事!」
渾身の力に魔術の力を上乗せして
「しっかりして!
薄暗い地下水路の奥、彼の首元を飾る緑色の
不意に腕が軽くなった。ロット君の目に光が差し、戸惑ったような表情を浮かべている。
「何してんだよ、バカ兄貴!」
ロット君の額から血が一筋流れ、エリューゼが持っていた
「
「お姉さんに心配かけて!足ひっぱって!悔しかったらちょっとは役に立てよ、このバカ!」
「てめえ、後でおぼえてろよ!」
こんな時でも言い争うとは信じがたい二人だと思ったけれど、ともかくこれで勝機が見えた。
「ロット君、これを!」
抜き身の
「できるよ、ロット君なら」
言い残して
続けざまの破壊魔術も大した威力ではないが、妖魔はこざかしい
ロット君の手元から、暗闇を裂くように銀色の光が斜めに
数瞬の空白。蛇の胴体から女性の上半身が斜めに滑り落ち、濁った水柱を立てた。
残された蛇の胴体もしばらく泥の中を無闇に
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