儀仗兵ロットの憂鬱(五)
冷たい両の
そういえば前にもこんな日があった。酒が切れて機嫌が悪くなった父親に殴られ、母親に割れた酒瓶を振りかざされ、命の危険を感じて逃げ出した夜のこと。
あてもなくアカイアの街を
だが世の中は甘くなかった。売春宿の前で腕をつかまれしつこい勧誘に遭い、路地に入ると甘い香りの薬物を吸う若者が
今の私は帰るあてのない浮浪児ではない。お金を払って宿に泊まることもできる、王宮の敷地内にある宿舎に帰れば暖かい部屋の柔らかいベッドで眠ることができる。
でもロット君はどうする?このまま離れてしまえば彼は都会の誘惑に捕らわれ、『
何となく帰るきっかけを失ったまま時が過ぎていく。夜も更けたこの時刻ではもう宿屋も閉まっているだろう、深夜にずぶ濡れで王宮に戻っては何があったのかと怪しまれてしまう。
辛い記憶を掘り起こしてしまい、考えるほどに迷路にはまり、とうとう私は集合住宅の軒下で膝を抱えたまま動けなくなってしまった。
「何やってんだお前……」
どれほどの時間が過ぎた頃か、上から声が降ってきて目を開けた。背の高い影、懐かしい声、でもお酒の匂いがする。
用件だけを伝えて帰ろうと思ったが、ずぶ濡れじゃないか、いいから入れと言われて部屋に招き入れられた。
決して広くはない
「たまには掃除しなきゃ駄目だよ、ロット君。お母さんが心配してたよ」
「うるせえ。風邪ひくぞ」
雑に放り投げられたのは乾いたタオルと、私には大きすぎるシャツ。ちゃんと洗ってはあるようだけれど、どこか男の人の匂いがする。
「ええと、あの……」
「場所なんてねえよ。後ろ向いてるからさっさと着替えろ」
重く湿った衣服を脱ぎ、私が二人並んで入ってしまうほど大きなシャツをに体を通す。余りまくった裾を軽く縛り、タオルで髪を拭く。絶対横目で見られると思っていたのに、彼は両手で目を隠して後ろを向いたまま身動き一つしない。あのエロガk……シエロ君のお兄さんだというのに。
「ありがとう。終わったよ」
「おう」
短い返事に続いたのは気まずい沈黙。
「……泊まっていけよ。まだ雨降ってるぞ」
「……うん」
どうしても私に
おやすみ、と声を掛けて、硬い
都会に流されて変わってしまったのかと思ったけれど、やっぱりあの頃の優しいロット君のままだ。あのエロガk……シエロ君のお兄さんだというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます