儀仗兵ロットの憂鬱(一)
噴水の
他の町に比べると亜人種の割合が多く、
王都フルート、エルトリア王国よりも長い四百年の歴史を誇る古都。
深く広大な森に抱かれて自然のままに暮らす亜人種自治区から帰って来た私には、この町の全てが
その中心に据わる王宮は建築技術の粋を尽くした白亜の威容を誇り、敷地内に国政や国軍に関連する施設をいくつも抱えている。四方を囲む城壁には東西南北合わせて六箇所に分厚い門扉があり、その全てに警備の兵が詰めている。
普段は比較的目立たない東門を通ることが多いのだが、今日は最も大きい南側の正門を訪れた。この場所に目的の人物がいることを知っていたからだ。
開かれた門の前に立つ二人の
「お疲れ様です。
やはり身動き一つしないけれど、左側の背が高い方の
無理もない、この人は血が繋がらないとはいえ同じ家で暮らし、軍学校の二年間を共に過ごした兄なのだから。
そのロット君はジュノン軍学校を卒業してエルトリア国軍に入り、アカイア市での新兵訓練を終えるとすぐに
その華やかさから
今日は久しぶりにロット君と夕食の約束をしていたのだけれど、待ち合わせの時間を過ぎてもまだ彼の姿は無い。
それはまだ良いとして、この店は少々落ち着かない。
薄暗い店内で奇抜な格好の若者が前衛的な音楽を掻き鳴らし、それに合わせて露出の多い女性が激しく踊り狂う。やたらと裾の短いタイトスカートを
「よう、待たせて悪い」
「あ、うん……」
やがて現れたロット君も、それら若者達とさほど変わらぬ
「おっ、この子が妹?よろよろー」
「へえ、カワイイじゃん。名前教えて?」
「ど、どうも。ユイです」
ロット君の友人だという二人も奇抜な青年で、一人は長い金髪に
いや、むしろここでは地味なブラウスにフレアスカート、単に髪を下ろしただけという私の方が変に目立っているかもしれない。
「こっちが妹?ぷっ、イモくっさ」
極めつけは最後に現れた若い女性で、おそらくは美人の部類に入るのだろうが化粧が濃すぎてよくわからない。胸元が大きく開いたどころかほとんど隠れていない上衣に
小指を立ててどぎつい緑色のカクテルに唇を付け、真っ赤な口紅を残したそれをテーブルに置く所作からは気品の欠片も感じられない。そんな見た目の衝撃が強すぎて、初対面での失礼な言い草も頭に入ってこなかった。
「こいつが妹のユイだよ。みんな、よろしくな」
ロット君はと言えば気にした様子もなく、一気に
カラヤ村の実家や軍学校にいた頃は純朴でひたむきだった兄の変わりようを見て、私はこれまでに無い居心地の悪さを感じていた。
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