亜人種自治区における産業の調査および振興(八)
「元エルトリア王国兵ダムド・ソルメス、亜人種自治区内にて多数の亜人種を
「ああ」
「エルトリア王国
「……」
むしろ私の方が動揺しているかもしれない。手に汗がにじむ、喉が貼りついて声が出ない、鼓動が早鐘のようだ。
目の前の男は幾人もの亜人種を殺し、死体の一部を切り取って売りさばく
エルトリア王国の
それでも手が震える、膝に力が入らない。私に無抵抗の人の命を奪う権利があるのだろうか、この人にも帰りを待つ家族や恋人がいるのではないだろうか。そのような思いがどうしても頭から離れない。誰も一言も発せず、不自然に音の無い時間だけが流れていく。
「……やれ」
間に耐えかねたか、男は短く
目を
旅立ちの朝には、何もかも忘れたような蒼天が広がっていた。
実際、昨日の死闘を思い起こさせる物はほとんど残っていない。巨象ほどもある
密猟者達は捕らえられた仲間を奪い返しに来ることもなく、荷車に積んであった亜人種達の体の一部はそれぞれの故郷に返された。フルシュ村は私が訪れた時と同じ静けさを取り戻し、通りには飲み物や食べ物を売る屋台が連なっている。
『ひとつ、一人じゃ食べきれない』
『ふたつ、
学校の窓から子供達の声が流れてくる。亜麻色の髪の友人の姿を一目だけ見て、私は歌声に背を向けた。
『亜人種自治区における産業の調査及び振興』などという私の幻想は散々に打ち砕かれ、
もしかすると自分は
でも、と思い直して顔を上げ、なぜか頭から離れない歌を口ずさんだ。
『みっつ、みんなで分けたなら』
彼らとの関係改善には時間がかかるだろう。それほどの罪を私達
でもきっと、それは不可能ではない。私にとってプラたんはいつまでも大切な友達だ、そこに種族の違いなどありはしないのだから。
『よっつ、夜中におなかがすいても』
『いつつ、いつでも食べられる』
どこまでも青く高い空に手を伸ばす。私の歌声は風に乗り、その先に抜けていった。
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