最果ての魔術師(三)
この日私は油断していたのだろうか。夜半に扉を軽く叩かれるまで周囲の気配に気づかなかった。常に危険と隣り合わせである
「お客様、起きておられますか?」
「……はい。何事でしょう?」
「領主様がお呼びです。夜遅くに申し訳ございませんが、ご支度ください」
宿の主人に間違いないが、緊張した声だ。偽名を使い姿を変えていたというのに、数日でもう
「今からですか?よろしければ明日の朝に伺いますが」
「何としても今すぐお連れせよ、との申し付けです。すぐにご用意ください」
気配を探るまでもない、既に部屋の周りを囲まれている。武器を持った者が窓の外に数名、廊下に数名といったところか。ただし全く気配を隠せていないところを見ると、専門の兵士ではなく
だが逆に、その事実が私に逃亡をためらわせた。武器を持った村人が数名ならば魔術と剣術で退路を切り開くのは難しくないが、そのためには相手が追跡を
「……わかりました」
扉の向こうにそう告げると、明らかな
独自の階級制度で『二級村民』を見下してはいても、この宿の主人や周囲の村人達は悪人とまでは言えない。夜中に客人を呼びつけるような非礼を後ろめたく思っているのだろう、問題は領主を名乗るあの男だ。
「お待たせしました。ご案内願います」
「失礼します。杖をこちらに……!?」
手にしたランプの灯りの向こうで、宿の主人が私の顔を二度、三度と覗き込むのが見えた。
エルトリア王国の騎士階級であることを示す濃緑色の士官服、
相手はこのような時刻に呼びつけるほど疑いを深めているのだ、もはや姿を偽る必要もない。腰に提げた愛用の
夜目にも立派に映る建物は
独自の身分制度を作り、人々から労働力を搾取して
さらに大理石の床を踏みしめ、門前の胸像と同じ表情の肖像画の前を通り過ぎ、装飾が施された両開きの扉を開けて、ようやく『領主様』の御前に参上した。
赤い
「変装はもう終わりか。
「お久しぶりです、魔術師フレッソ・カーシュナー」
◆
たくさんのフォロー、ハート、コメント、★に励まされて、100話までたどり着くことができました。これほど長い作品にお付き合いくださり、ありがとうございます。
物語は中盤といったところですが、終章までのプロットはほぼ完成しています。
私の身に何か起きることがなければ未完のまま終わることはありませんので、よろしければ引き続きお付き合いください。
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