巡見士ミオ・フェブラリー
鏡の前で何度も顔の角度を変え、
「ううん、やっぱり子供っぽいかな。リボンが大きすぎるのかな……」
私は少々緊張している。もうすぐあのフェリオさんと待ち合わせの時刻だから。
ただ、昨日任務を終えて王都に帰って来た彼から食事に誘われたときは、驚きと緊張のあまり声が裏返ってしまったのも事実だ。
「もしかして口紅濃すぎる?眉毛おかしくない?」
もう時間が無いというのに、独り言を
情報収集を主な任務とする
先輩
「もう駄目だ、行かなきゃ!」
どうしても気に入らない眉毛を諦めて化粧箱を閉じ、私らしくもないフリルのついたブラウスに薄緑色の上着を羽織って待ち合わせの店へ。
黒を基調とした
最初に会ったのはもう二年以上も前になるが、この人の印象は全く変わらない。少し青みがかった鉄灰色の髪、笑うと見えなくなるような切れ長の目、中背の引き締まった体。優しさと強さと容姿と内面をこれほど高い水準で兼ね備えた男性を、私は前世でも今世でも他に見たことが無い。
挨拶を済ませて席に着き、いくつか言葉を交わしたはずなのに、ほとんど記憶に残っていない。それどころか背後に足音が迫り、軽く肩を叩かれるまでその気配に気づかなかった。任務に諜報活動を含む
「ずいぶんと盛り上がっているのね。お邪魔だったかしら?」
「あれ?ミオさん?あれ?」
研修で化粧の基本や洋服の着こなしを教えてくれた先輩
輝く白金色の髪に白皙の美貌、持って生まれた優れた容姿に化粧の技術を上乗せしたミオさんは、『絶世の』という
「いや、待っていたよ。さっそく乾杯しようか」
フェリオさんの言葉にようやく、席が三つ用意されていたことに気が付いた。確かに彼は「
「では乾杯しよう、新しい仲間に!」
「よろしくね、ユイちゃん」
「あ、ええと、はい。ありがとうございます」
ランプの灯が揺れるテーブルに硬い音が響いた。
薄い
「だいたいフェリオ、あなた誰にでも優しすぎるのよ。そんな事じゃいつか勘違いした女に刺されるわ」
「これでも気を付けているつもりだよ」
「全然ダメよ。ねえ?ユイちゃん」
「え?ど、どうでしょう?」
優雅な手つきで自分のグラスに葡萄酒を注ぐミオさんは、微かに頬に朱が差してますます妖艶な魅力を
お二人は交際しているのですか?と聞くことができれば楽になるのだろうが、それは容姿だけでなく全てにおいて決定的な敗北を認めることになってしまうかもしれない。
結局私は何も言えず、
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