卒業記念試合(二)
「おはよう。やっぱり今日もやるんだ?」
「うん。いつも通りにしないと落ち着かないから」
卒業記念試合四日目、最終日。カチュアと私はいつも通りの早朝訓練をこなした。
「どう、疲れは残ってない?」
「大丈夫だよ。今日で終わりだし」
「終わっちゃうね」
「そうだね・・・・・・」
カチュアはもともと多弁な方ではないが、今日は特に口数が少ない。濃密な学園生活を振り返っているのか、それとも決戦の舞台に思いを
この二年間、いったい何度打ち合ったことだろう。結局カチュアには一度も勝てなかったけれど、それは今日来たるべき戦いのためだ。まだ見せていない戦術、密かに修練を重ねてきた技がいくつもある。
彼女は親友であり、目標であり、そして超えるべき存在だ。これからも対等の友達であり続けるためには絶対に負けるわけにはいかない。
「じゃあ、決勝戦で」
「うん。カチュアと戦えるように頑張るよ」
言葉少なに普段通りの訓練を終えて、私達は女子寮に戻った。
総勢一九二名の出場者も、最終日の今日まで勝ち残ったのは僅か四名。
ほとんどの生徒が出番を終えているためか、屋内競技場の観覧席は早い時間から満席になってしまった。立ち話をする生徒、飲み物を売る屋台、ざわめく観覧席、半ばお祭りのような様相を呈している。
「二年生カチュア・ユーロさん、二年生ロット・レックハルト君、第一試合場に入ってください」
圧倒的な実力を誇るカチュアはともかく、ロット君が準決勝に残ると予想していた者は少ないだろう。不用意な攻撃を仕掛けては反撃を受け、何度も劣勢に立たされるなど内容も危なっかしいものだったが、その度に底力を発揮して勝ち上がってきた。
妹である私が
「ロットく・・・・・・」
声を掛けようとした私の前に、何者かが割り込んだ。
「ロット君!頑張って。上から見てるからね!」
「おう、見とけよ。面白いもの見せてやるぜ」
「楽しみ~。応援してるよ!」
カイナ。昨年アシュリー達と一緒に、私に嫌がらせをしていた子だ。
栗色の髪、ぷくりと膨らんだ唇、ぎりぎりまで短くしたスカート。計算された可愛らしさが溢れているが、祈るように両手を組み合わせて飛び跳ねる仕草は少しあざといのではないか。
彼女らのうちアシュリーとリースとは和解したし、エリンは別件とはいえ頭を下げてくれた。しかしこのカイナだけは反省も謝罪もせず、いつの間にか剣術科のロット君とも仲良くなっている。周りを散々に掻き乱した
そのカイナはロット君の手に軽く触れ、まだ何やら話し込んでいる。
ロット君もどうなのだろう、試合前だというのにいつまでやっているのか。
「カチュア・・・・・・」
ならば先にカチュアに声を掛けようと思ったのだが、彼女は喧騒に背を向けて競技場に向かってしまった。双方に取り残された私を見て、カイナが薄く笑ったように見えたのは気のせいだろうか。
会場が沸いた。少し乱れ始めた私の心などとは関係なく、試合が始まった。
血縁の無い兄と親友、決勝の舞台で私を待つのはどちらだろうか。
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