十六歳の学園生活(四)

 来た。【位置特定ロケーション】の魔術を掛けておいた金貨が移動している。犯人が罠に掛かったのだろう。


「ラミカ、行くよ!」

「はーい」


 私とラミカは湯船から上がり、体を拭くのもそこそこにお風呂を飛び出した。急ぐ必要があるため下着は着けていないが、荒事があったとしてもどうせ女子寮の中だ。濡れた髪もそのままに、半袖のシャツとハーフパンツだけを身に着けて裸足で駆け出す。


「まってー」


 牛の着ぐるみを着たラミカがぽてぽてと追ってくるが、遅い。非常に遅い。果てしなく遅い。既に犯人は女子寮の裏口から外に出たようだ、先行しているはずのアシュリーの安否も気掛かりだ。とても待ってはいられない。


「先に行くよ!後から来て!」

「まってよー」


 裸足のまま裏口から飛び出した。【位置特定ロケーション】の反応は資材小屋のあたりで止まっている、そこでアシュリーの【根の束縛ルートバインド】に絡め捕られているのは・・・・・・エリンだ。昨年アシュリーと一緒に私に嫌がらせをしていたうちの一人。


「エリン、ユイにお金を返してあげて頂戴」

「お金なんて取ってない!これは私のだもん!」

「それは私が用意した金貨よ。ユイ達と一緒に【位置特定ロケーション】の魔術を掛けておいたの。言い逃れは無駄よ」

「証拠は?金貨に名前でも書いてあるの!?」

「書いてあるのよ」


 そう、書いてあるのだ。カミーユ君の助言で、金貨の側面に小さくアシュリーの頭文字を古文字アルートで刻んでおいたから。

 追いついた私がエリンのポケットから金貨を取り出して見せると、エリンは観念するどころか逆上してしまった。


「なんで?どうしてあんた達が一緒にいるの!?アシュリーがユイのこといじめようって言ったんじゃない。なんで裏切ってそっちにいるのよ!?」

「悪いことをしたと思ったからよ。去年の私と同じような事をする人がいるなら、私のせいだと思ったから」

「最初から指輪とか刀とか盗んだのは私だって知ってたんでしょ!だからわざわざお金の話を聞かせて、盗むように仕向けたんでしょ!」

「それは違うよ」


 割り込んだ私は、少し落ち着いてもらうために金貨をゆっくりと布袋にしまい、アシュリーに手渡した。


「あれは教室にいる全員に聞こえるように言ったの。私もプラたんを疑うことになるのは嫌だったし、アシュリーもカイナとエリンを疑うのは辛かったと思う。でも大事おおごとにならないようにするには、これしか考えつかなかった」

「・・・・・・」

「エリン、謝ってくれればそれでいいよ。別にあなたを退学させたいわけじゃないから」

「ほら、一緒に謝ろう。半分は私のせいなんだから」


「・・・・・・ごめんなさい」


 しばらくして、エリンはアシュリーと一緒に頭を下げた。今までされた事に対してずいぶん甘いかもしれないけど、これで良いと思った。彼女らに罵声を浴びせても頬を叩いても退学させても、ただ私の気が少し晴れるだけだから。


「アシュリー、ありがとう。協力してくれて」

「ふん。あなたのためじゃないわ、私の名誉のためよ」


 アシュリーは鼻を鳴らして横を向いたが、頬が紅く染まっているのが少しだけ可愛らしい。




「おーい」


 牛の着ぐるみがぽてぽてと走ってくる、でもなかなか到着しない。


「まってー」


 息を切らせてようやく近づいてきたラミカ、その頭上で振り回されている水色の布切れに見覚えがある。


「はい。ユイちゃん、パンツ忘れてるよー」


 もしかしてこの子はわざとやっているのだろうか。

 私は無言で布切れを受け取り、ポケットに押し込んだ。

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