十六歳の学園生活(三)

 自分の席に戻った私は教室を見渡した。

 私とラミカが女子寮のお風呂に入っている間に、何者かが部屋の扉に掛けられた【施錠ロック】の魔術を解除して剣と指輪を盗み出し、屋外に捨てた。【開錠アンロック】の魔術が使える魔術師なのは間違いない。


 高価な指輪や剣を売ろうとせずに捨てていることから、目的はお金ではなく私への嫌がらせだろう。魔術が使えるのは私達二年生の他に一年生九名、先生方が四名いるが、私と直接関係がない一年生や先生は警戒の対象から除外していいだろう。


 二年生十二名のうち私自身と、一緒にお風呂に入っていたラミカ、この件で同盟中のアシュリーも除外。目立たない男子生徒三名も女子寮に潜入すること自体が難しいので除外、これで残りは六名しかいない。心情的にはプラたんも除外したいが、友達だからという理由で外すわけにはいかない。


「ユイちゃん、協力できることがあったら言ってね。私味方だからね」

「・・・・・・ん、ありがとう」


 珍しく自分から話しかけてきたのはカイナ。昨年アシュリーと一緒に私に嫌がらせをしていたうちの一人で、抜け目のない子だ。『味方』だとか『友達』という言葉を頻繁に使うのは口癖だろうか。


 アシュリーに何やら話しかけているのはエリン。アシュリーの取り巻きのうちの一人だが、この子の印象はあまり無い。言葉を交わしたことも数回しかないはずだ。


 同じく昨年アシュリーの取り巻きだったリースは教室の隅で本を読んでいるが、あまり集中できていないように見える。とても気弱な子だし、一年生の終わりに話をする機会があったことで少し心が通じたと思っているのだけれど。


 残った二人、クロード、ブリジットとはあまり交流がない。知らないところで恨みを買っていたと言われればそれまでだけれど・・・・・・。


 などと全員をながめたところで、私は頭を振った。仮にこの中の一人が犯人だったとしても、残りの人達は関係ない。それどころか私を心配してくれているかもしれない、こうやって皆を疑いの目で見るのは良くない。今考えるべきは手段だ、こんな時に最適の相談相手がいる。




「状況は理解した、おおむねユイさんの作戦でいいと思う。ただちょっとだけ小細工してみようか」


 昼休みに呼び出したカミーユ君は、私が考えた案をあっさりと了承した。ついでにロット君も「俺も俺も!」と協力を申し出てくれたものだが、軽率で脳みそ筋肉の彼をこのような作戦に加えるのは致命的なので丁重にお断りした。




「ねー。そういえばユイちゃん、今年の授業料どうなったー?」

「なんとか用意できそうだよ。明日まとめて支払いに行く」

「よかったねー。頑張って働いてたもんね」

「それでも足りなくて両親に借りちゃったんだ」


 午後の休み時間、さっそく作戦が始まった。


 懸念けねんしていたラミカの演技も悪くない。彼女の役割は、皆に聞こえるようにお金の話をすることだ。そしてアシュリー、彼女はカイナとエリンの二人にこの話を聞かせること。不自然でない程度に近い場所でこちらに視線を送っている、これも上手くいっただろう。

 授業が終わると私とラミカの部屋にアシュリーを招き、お金にちょっとした細工を施した。


「お菓子食べるー?」

「いらない」

「そう?おいしいのにー」


 暇になったラミカが場を和ませようとしたようだが、アシュリーに素気すげ無く断られた。

 机の上には一万ペル金貨が五枚、これはアシュリーが用意してくれたものだ。彼女も自分の友達を疑うことに罪悪感があるだろう、だが同盟を組む以上はそれを排して責任を果たしてくれている。やはりこの子は信用できると思う。


「それじゃ、三人で一緒に【位置特定ロケーション】を掛けよう」

「天にきらめく光の精霊、れに宿りて脳裏に瞬く小さき光となれ。【位置特定ロケーション】」

「アシュリー。私達はいつもの時間にお風呂に行くから、よろしくね」

「わかったわ」


 この作戦が成功した場合、アシュリーが犯人と一人で相対することになる。カチュアを護衛につけることも考えたが、いつもと違う行動をしては怪しまれてしまうだろう。

 それにアシュリーは能力も責任感も申し分ない。同盟を組んだ以上、私は彼女を信用することで応えようと思う。


 ラミカを部屋に残してアシュリーは自室に、私はカチュアとの自主練に向かった。

 作戦開始。その緊張感を、牛の着ぐるみを着て尻尾を振るラミカが台無しにしていた。

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