十六歳の学園生活(二)

「あった。無事だったよ」

「よかったー。誰がこんな事すんのかなー」


 ラミカと一緒に女子寮裏のゴミ捨て場から銀鞘の細月刀セレーネを拾い上げ、刀身も鞘の細工も飾り紐も無事なことを確認して安堵あんどの息をついた。

刀はカチュアから、鞘に着けた飾り紐は家族から、それぞれ十六歳の誕生日のお祝いとして貰ったものだ。早速さっそく失くしてしまっては合わせる顔がない。


 昨日はフェリオさんから頂いた真銀ミスリルの指輪が焼却炉に捨てられていた。いずれも私とラミカがお風呂に入っている間に部屋から持ち去られたようだ。

 大事な品から目を離すときは【位置特定ロケーション】の魔術を掛けておく、という基本をおこたらなかったので大事には至らなかったが、いくら何でも嫌がらせの度が過ぎている。


「先生に相談した方がいいよー」

「うん・・・・・・」


 担任のヒスタリア先生は正直あまり頼りにならないのだが、期待せずに一応この件を伝えておいた。すると。




「昨日と一昨日、ユイさんの貴重品が盗まれました。誰か知っている人はいませんか?」


 朝礼で言われてしまった。

 ああ、やっぱり駄目だこの人。こんな事で犯人が名乗り出るはずがないし、先生も解決する気はない。一応対処しましたと言いたいだけだ。それに。


「わ、私じゃない!」


 アシュリーが蒼ざめた顔で立ち上がり、つぶやくような声でもう一度否定した。


「私じゃない・・・・・・」


 昨年私がアシュリー、カイナ、エリン、リースの四人に嫌がらせを受けていたことは皆が知っている。首謀者がアシュリーだったということも。

 ヒスタリア先生が保身第一の人であることは承知していたつもりだが、これでは皆の不信感が増すだけで誰も救われない。私は先生に期待するのをやめて自分で行動することにした。


「アシュリー、ちょっといいかな」

「ち、違う、私じゃない!」

「わかってる。お願いがあるんだ」


 休み時間、私はアシュリーに耳打ちして廊下に連れ出した。教室内の視線が集まったようだが気にしない。いや、それでいい。


「今回の件、私はアシュリーが犯人じゃないと思ってる」

「どうして・・・・・・?」


 半泣きのアシュリーをなだめつつ説明した。


「【施錠ロック】の魔術を掛けてあった扉を開けてから物を盗むには、【開錠アンロック】の魔術を使うしかない。魔術を犯罪に使えば退学はまず間違いない、帝国から留学で来てる貴女あなたが退学になれば、国や家に傷をつけるほどの問題になってしまう。これが一つ目」


「昨年あなた達が私をいじめていたことは皆が知ってる、こんな事が起きたらアシュリーが真っ先に疑われる。これが二つ目」


「犯人は私の成績が急に良くなって焦ったのかもしれない。でもアシュリーとラミカは別格、私を脅威に思うほどじゃない。だから動機が薄い、これが三つ目」


 アシュリーの目から動揺の色が消えた。彼女は賢くて計算高い、この程度のことがわからない生徒では決してない。私は彼女を嫌っていても能力的には信頼しているのだ。

 落ち着きを取り戻したアシュリーは、緩やかに波打つ金色の髪を後ろに跳ね上げた。


「『お願いがある』って言ってたわね。協力しろって事かしら?」

「そういうこと。お互いのために」




 握手なんかしないし、慣れ合うつもりもない。

 だが利害は一致しているはずだ、一時的に同盟を組む相手としては頼もしい。今はそれで十分だった。

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