十六歳の学園生活(一)

「ただいまー!!!」

「おー。待ってたよー」

「・・・・・・ユイちゃん、おかえり」


 私は部屋に入るなり、牛と猫の着ぐるみに抱きついた。

 五十日間の春休みを終えて戻ってきた軍学校の女子寮は、今の私にとってどこよりも落ち着く場所だ。あと一年しかいられないのが残念ですらある。


「ラミカ~元気そうだね!」

「なんだよう、揉むなよう」

「プラたんも着ぐるみにしたの?いいねそれ」

「ふふ・・・・・・ラミカにもらった」

「ユイちゃんのもあるよー」


 牛の着ぐるみを着たラミカが布袋から取り出したそれは、灰色っぽい狼の着ぐるみだった。大きく開いた口から顔を出す形になっているので、狼というよりも『狼に食べられた人間』のようだ。


「どうかな?」

「・・・・・・っぷ。ユイちゃん、かわいい」

「プラたん、いま笑ったよね?」


 ハーフエルフのプラたん、プラタレーナちゃんは着ぐるみの中で耳をせわしなく動かした。無口であまり表情も動かない子だが、慣れると耳の動きで感情がわかるようになる。


 私達はそれぞれのお土産を披露し合った。ラミカは猫と狼と熊の着ぐるみ、プラたんは果物を乾燥させて作ったお菓子を大量に、私は帝国産の果実酒を数種類。さて再会を祝して乾杯、という時に扉を軽く叩く音がした。


「失礼します。ユイちゃん、いるかな」


 カチュアが遠慮がちに部屋を覗き込み、その場で固まった。


「な、何してるの・・・・・・?」

「まあまあまあまあ。どうぞどうぞ」


 剣の達人でもある侯爵令嬢は牛と猫と狼に寄ってたかって服を脱がされ、訳も分からず熊の着ぐるみを着て乾杯することになった。




 翌朝、魔術科の訓練施設。入学式の日と同じような魔力測定の場でざわめきが広がった。


【精霊感知】【精霊操作】【体内魔素量】【総合魔力】いずれも最下位だった私が別人のような力を示して、軒並み上位の成績を修めたためだ。総合成績はアシュリー、ラミカ、プラたんに次ぐ四位。


「おー。やるじゃーん」

「・・・・・・ユイちゃん、すごい」

「うん。でもこれのおかげかな」


 左手の小指に光る指輪。真銀ミスリルで造られたそれは、魔術の媒体として至高の品だ。術者である私自身にとって思い入れが大きいという事情も、さらに性能を引き上げる要因になっている。学校から借りていた安物の短杖スタッフとは比べるべくもない。


 優れた媒体と本人の力とは別物という向きも無いことはないが、自分に合った媒体を手に入れるのも実力のうちという考え方の方が一般的だ。

 それに私自身も休み中の努力はおこたらなかったし、魔人族ウェネフィクスという格上との戦いで掴んだものもある。これは決して指輪のみで成しえた結果ではないはずだ。




 ・・・・・・などという事情を知らない者からすれば、劣等生がたまたま優れた媒体を手に入れて成り上がったとしか思わないだろう。何の努力もせずに自分の地位をおびやかした、気に入らない、と。

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