おかえりなさい
「おねえちゃん、おかえり!」
「おかえりなさい!」
家の外で待っていたシエロ君とクリアちゃんが飛びついてきた。庭仕事をしていたアメリアさん・・・・・・お母さんに挨拶を済ませて荷物を下ろす。
自分の家、帰るべき場所ではあるのだが、新しい家族とここで暮らしたのはまだ三十日あまり。軍学校で過ごした時間の方がはるかに長いのだ、「やっぱり家が一番」などという言葉は出てこない。
それに私は、家族
一人旅は気楽だったなあ、友達との二人旅は楽しかったなあ。尊敬できる両親に助けられ、
「おねえちゃん、ありがとう!」
「すげー!やったー!」
「あら、私にも?気を使わなくてもいいのよ」
「これは良いな。大事に使わせてもらうよ」
「俺には俺には?」
みんな揃っての夕食でお土産を披露して、目を輝かせてくれるのは素直に嬉しい。
両親には
「シエロ、クリア、お姉ちゃんにあれ渡して」
「はーい!おねえちゃん、おたんじょうびおめでとう!」
「え、私に!?」
「旅先で十六歳になっただろう。みんなからお祝いだ」
「細工屋の親方に造ってもらった特注品だぞ」
緑色と銀色の繊維で丁寧に編まれた
「ありがとう、ございます・・・・・・私なんかのために」
「私なんか、という言葉は良くないぞ。お前はもっと自信を持っていい」
私は
でももう少しだけ、家族というものに慣れる時間が欲しい。そしてたぶん、この人達はそれを許してくれる。
夕食の後。クリアちゃんを膝の上に乗せ、絵日記を見せながら旅先のお話をしているとき、ふと思った。
もし世界の隅々まで見て回るという夢が実現したとして、それを私の頭の中だけに閉じ込めているのは
「ねえ、ロット君!お兄ちゃん!」
「なんだよ、気持ち悪いな」
「絵を教えてくれない?」
「あん?」
ロット君は細工屋さんで二年ほど働いていたことがあるはずだ。あの店の陶器や木箱に描かれた絵は見事なものだった、彼も基礎くらいは教えてもらっているのではないか。
試しに紙と木炭を手渡して、お土産の砂時計を模写してもらうことにした。正直あまり期待していなかったのだが、ロット君の絵はなかなかのものだった。砂時計の透明感や陰影を木炭一本で写実的に表現している。
「すごいすごい!教えて教えて!」
「そ、そうか?このくらいでいいなら・・・・・・」
「端っこを軽く持つんだぜ。少しずつ色を乗せていくんだ」
「うーん。なかなか難しいね」
これはかなりの練習が必要なようだ。軍学校に戻ればまた学業と訓練と仕事の日々が続くのだから、家にいる今のうちにたくさん教えてもらわなければ。
「ねえ、ガラスの透明感を出すには・・・・・・」
いつの間にかシエロ君までやってきて、テーブルの向こうから一緒に私の絵を覗き込んでいる。
でも何だろう、この顔は。下目使いで鼻の下を伸ばして、二人揃ってかなりの間抜け
「え、お、透明感?それはな・・・・・・」
・・・・・・これか。これだ。私の服は全部洗ってしまってお母さんの服を着たのだけれど、大きさが違いすぎて胸元が大きく開いている。二人が覗き込んでいたのは絵ではなく、私の服の中身だったようだ。
胸元をかき寄せて私は思った。もしもう一度生まれ変わって男性に戻ることがあったら、こんな
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